仮想人生

人生の闇とは適度に仲良くしておく

裏アカウント「暇な医大生」こと、デリバリーホストのアルバイトをする裕二を買った、42歳の愛。彼女もツイッターでは「ねね@童貞ハントFカップ」として活動していた。昼間の職場の顔とはまったく違う夜の顔。性欲と食欲で心のバランスを保っているが――。

現代の寂しさとその救いを描く小説『仮想人生』は単行本でも発売中!

愛  42歳
(アカウント:ねね@童貞ハントFカップ
「アラフォーのドMです。都内在住。童貞さん、学生さんウェルカム。DM、リプ、気まぐれだけどちゃんと返します」)

堕落というのは癖になるのだろう。

私は仕事で表彰されるよりも、お給料が振り込まれた通帳を見るよりも、自分が自堕落に振舞う時に一番強く、生きていることを噛みしめる。

楽しさや高揚は一瞬しか続かない。その後に淡々と続く寂しく物足りない日常をどう埋めるのかが人生をどう過ごすかということなのではないだろうか。むしろ変に人生に光がさすと、その光がやがて陰って闇に落ちる怖さに耐えきれなくなる。だったら最初から闇を自分の住みかとして、闇と仲良くするのが賢明なのではないか。

会社にいる昼間の自分はコスプレでしかないと思うと、仕事の苦しみは難なく乗り越えられた。クライアントに理不尽な要求をされても、自分のものではないミスに頭を下げることになっても、心を無にしていれば痛くならない。この自分は本当の自分ではないと思い込めばいいだけだ。

昼に私以上の私を完璧に演じるために、夜は、知らない男と心を交わさないセックスして、安いだけの食べ物を胃がぱんぱんになるまで体の中につめて、吐いてとことん無駄にする。身体と心とお金の無駄遣い。もう40代の若くもない女がみじめで、みっともなくて、だからこそ安心する。私の人生はこれくらいがちょうどいい。

幸せというのは強迫観念だ。一度得ると失うのが怖くなる。幸せになりすぎると、きっとそれだけ大きな不幸がやってくるに違いない。だから私は大きく不幸にならないために、自分で自分の幸せを毎日ちょっとずつ傷つけるのだ。

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はあちゅう

大人なんだから自分の寂しさくらい自分で処理しなきゃいけない。だから、結婚3年目・33歳のユカは、夫の帰りを待つだけの夜に耐え切れず、ツイッターで裏アカウント「人妻の美香」を生み出した。自堕落な世界をただ見学するつもりだったのに……。 ...もっと読む

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consaba はあちゅう「会社にいる昼間の自分はコスプレでしかないと思うと、仕事の苦しみは難なく乗り越えられた。クライアントに理不尽な要求をされても、自分のものではないミスに頭を下げることになっても、心を無にしていれば痛くならない。」 https://t.co/4VHCpGoLDV 9ヶ月前 replyretweetfavorite

kironabe 四十二歳でやりまくってんのに何が 9ヶ月前 replyretweetfavorite

usuimasami |仮想人生|はあちゅう|cakes(ケイクス) #はあちゅう #仮想人生 俺の裏垢も、フォロワーが900名を超えた。引退しても悲しみの声はないだろうけどな。あ、それは本垢も同じか……。 https://t.co/JzeJt2OZeO 9ヶ月前 replyretweetfavorite

take0927 「堕落というのは癖になるのだろう」 ねねの言葉に癒される。 はあちゅう @ha_chu | 9ヶ月前 replyretweetfavorite