FOK46—フォークオーケン46歳
【第21回】64年製

兄が海難事故に遭って亡くなったという報を聞きながらも普段通りライブを行なおうとするオーケン。しかし、マネージャーから、兄の死がニュースになり、すでに多くの人の知るところになっていることを聞きます。みんなが自分の気持ちをおもんぱかるなか、ロックバンドのボーカリストとしてどう振る舞うべきなのか。オーケンが出した答えとは。

 ところが、普段のままのライブというわけには、いかなくなった。

 恵比寿リキッドルームの楽屋でサイレントギターを爪弾いていると、ソファの背後からマネージャーが、小声で僕に耳打ちをした。
「あの、お兄さんのこと……」
「え? 知ってるの?」
 さすがに父あたりがマネージャーには伝えたのかと思った。
「みんな知っています」
「え? みんな? なんで」
「さっき、Yahoo!のニュースに上がったんですよ。お兄さんが海難事故でなくなられたこと」
「え……、ああ、そういうことか……時代だね」
「どうしましょう」
「何が」
「いえ、今日のライブ」
「やるよ、普通に」
「ええ」
「でもお客さんも知っちゃってるわけか」
「やりにくいですよね」

 まったくその通りだ。アニキもやりにくいことをしてくれたもんだぜ、と思った。
 激しく楽しいロックのライブ、その狂言まわしを努める者の肉親の死を、皆が知っているというのだ。これはどうにもやりにくい。
 身内に不幸のあったばかりのロックバンドのボーカリストが「のってるかい!? 今夜は最高だぜ」とコールする人生劇場の皮肉に対し、人々はなんとレスポンスすればいいものか。
 そもそも、気を使われてライブをするのはゴメンだ。そういうふうにはロックというジャンルは出来ていないと思うのだ。
「やるよ、普通に、普段通りに」
 と、マネージャーに答えた。

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小説 FOK46—フォークオーケン46歳

大槻ケンヂ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂ。楽器演奏と歌を歌うのを同時にできないという理由で、ボーカルに徹してきた彼が、2012年、ギターの弾き語りでのソロツアーを始めた。その名も『FOK46(フォークオーケン4...もっと読む

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