絞められるためにある首ぴったりとヒトの両手の中に収まり
美術学校のデッサンのためのヌードモデルだけでは生計がたたないので、わたしはもう一つ、医学部の研究室での仕事を始めた。細胞研究の最先端であるその研究室は、ヒトの鳥肌から鳥を培養することに成功しかかっていた。
その日は、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」の模写用のヌードモデルだった。わたしは、ある一人の学生の視線に異様さを感じた。視線をたどる。二年前に別れた彼に目付きがそっくりだった。
全身に鳥肌が立つ。体の表面がひきつる。
帰宅すると、鳥肌のいくつかが雛に孵化し始めていた。
わたしは研究室に体を見せにいく。孵化した雛はまだ、わたしの体を離れない。そのまま、わたしはヌードモデルになる。ところどころ鳥になり始めているわたしの裸体は、「ヴィーナスの誕生」の新解釈なのかもしれない。
成長し切ったところで、鳥はわたしの体から飛び立っていった。
一羽、飛べない鳥がいた。研究室からその私物化を許可された。
わたしは、視線が別れた彼に似ていた美大生と付き合い出した。
飛べない鳥をわたしから切り取り、首を絞めてクリスマスに食べた。
馴染みのある、鶏の味だった。
なるべく鳥肌が立たないように、彼はいつでもわたしに優しくしてくれる。
まばたきをしない鶏鶏舎から酉の刻の夕日を見てる
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