ヒステリー女子」はもう怖くない! 達人が伝授する「怒った女」の究極トリセツ。

作家・王谷晶さんの「女のカラダ」を考える爆走連載、今回のテーマはシリーズ「女子と表情」の2回目「怒」です。王谷さんの「アンガー・マネージメント」術とは…?〈私は怒らなかった。学校の机にチョークで「レズ」と書かれノートをびりびりに破かれても、水商売をしていて胸をいきなり握り潰すような勢いで鷲掴みされても、持ち場から動けない警備員のバイトで侮辱的な事を言われながら身体をじろじろ観察されても、怒らなかった〉

ユー・ノウ・マイ・アンガー

この連載の固定読者でなくピュアにタイトルに釣られてクリックしたひと、残念でござんした。今回学べるのはトリセツはトリセツでも「取扱説明書」ではなく「取り殺す勢いの切実な怒り」のほうだ。覚悟しとけよ。というわけでシリーズ「女子と表情」、二回目は喜怒哀楽の「怒」であります。私はここ何年かおこりんぼ大将の名をほしいままにしている。主にTwitterで24h/365dブリブリ怒りまくっているからだ。オフラインでもけっこう怒っている。デモとか参加して怒鳴りまくってる。世の中には怒りのネタが多すぎる。しかしこんなにはっきり自分の怒りを表に出せるようになったのはほんとここ最近、年齢にして三十を過ぎてから。それ以前の私は凪のような穏やかな性格だった。というわけではなく、胸の中では怒りを感じたりモヤモヤすることが多々あったのだが、それをアウトプットするすべを知らなかったし、もっと言うと「怒っていい」ということすら知らなかったのだ。SNSを始めて一番エウレカしたのは、他人の怒り投稿に触れて「あ、これ、怒ってよかったんだ……」と気づいたことである。それまでの私は怒っていい、ふざけずちゃかさず嫌だと言っていいと知らなかった。何に対して? 差別と性暴力に対して。

おいしい生活

女・独身・中年・同性愛者・元登校拒否児・元引きこもり・BL好き・オタク・メガネ・借金あり・貧乏・実家も貧乏・非嫡出子・本名キラキラネーム・肥満・低身長・低学歴・無免許・飲酒喫煙・ハゲ・自由業・スケベ・地方出身。これが私の箇条書きプロフィールだ。一個一個切り取って売り暮らしていっても向こう三年はエッセイのネタにして食っていける。そう、ネタになるとしか思っていなかった。これらのことを揶揄されても「おいしい」と思ってすらいた。いちいち怒る人はしゃれの分からない、センスのない、世の中の道理の分かっていないイケていない奴だと思っていた。私は怒らなかった。接客の仕事をよくしていて、笑顔には自信があった。前回の「喜」の回では愛想がないという理由でバイトをクビにされた担当編集S氏のエピソードをネタにさせてもらったが、私は逆に愛想がよく「女はちょっとくらいデブでブスでも愛嬌がいちばんだよ!」と「評価」されるタイプの人間だった。私は怒らなかった。学校の机にチョークで「レズ」と書かれノートをびりびりに破かれても、水商売をしていて胸をいきなり握り潰すような勢いで鷲掴みされても、持ち場から動けない警備員のバイトで侮辱的な事を言われながら身体をじろじろ観察されても、電車に乗ってたら服に男性器を直でこすりつけられても、通りすがりの知らんおっさんにわざとぶつかられたりブス!とかまんこ!とか怒鳴られても、夜勤明けに疲れ切って乗ったタクシーの運転手に延々セクハラトークかまされても、怒らなかった。怒ったところでどうなるんだと思ったし、こんなことで怒るのは「クール」じゃないと思っていた。セクハラもパワハラもにっこり笑ってうまい惹句のひとつも言って受け流すのが「イケてる女」。痴漢やセクハラエピソードはギャグとしてテキストサイトやブログにおもしろおかしく書いてアップしアクセス数をゲットし、閲覧者(主に男性)に「女にしてはなかなかおもしろいじゃん?」と「評価」されることが何より大切なことだと思っていた。

ぜ ん ぜ ん 違 う

ほんとマジぜんぜん違うぞ。ひどいことをされたり言われたりするたび、平気な顔をしていても確実に私は傷を負っていた。でも、怒っていいって知らなかった。周りの女の人も、そういうことであからさまに怒ってはいなかったからだ。女の人は親しい人も町ですれ違う程度の人も、だいたい怒ってない。機嫌悪そうな人でも、無差別に怒鳴り散らしたり棒やナイフを振り回したり道端の看板蹴ったりはしていない。そして駅員に怒鳴ったりコンビニ店員に怒鳴ったり部下に怒鳴りちらしたりカッとして他人の尻を触ったり殺人したりしてるのは体感八割以上男性なのだが、なぜか「女はヒステリック」「女は感情的」が「世の常識」とされ、「そうならない」ことが「イイ女」の条件のように言われている。私はそれを当然のこととして、空気のように吸い込んできた。この国で生活するほかの大勢の女性たちと同じように。でもそれは当然でも常識でもなんでもない。同調圧力というニッポンの代表的なクソ国技によって感情を押し込められ、口を塞がれていただけなのだ。

それに気付かされたのが、匿名でありつつ個人アカウントでもって、垂れ流し的に発言できるSNSの世界だった。

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どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

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コメント

yuzr0000 |王谷晶 @tori7810 |どうせカラダが目当てでしょ https://t.co/4OXemzCkYJ バスマット状態…!バスマットから脱却! 9ヶ月前 replyretweetfavorite

never_say_eve そうですね、キレたほうが確実にいいですね。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

hayamiseo 王谷晶氏の連載、毎回ウィットに富んだお茶目な釣りタイトル含めて大好きなんだけど、今回は特に痛烈だ。そして今回も痛みを抱えるものや傷ついたものたちにやさしい。 https://t.co/gVL7wiEkyy 9ヶ月前 replyretweetfavorite

honya_arai |王谷晶 @tori7810 |どうせカラダが目当てでしょ 《誰かがあなたで足を拭いているのなら、それは不当で、あってはならない事なのだ。》 https://t.co/QU5y18BLCq 9ヶ月前 replyretweetfavorite