会社と対等である、という意識
——小野さんは、会社を辞めかけた時に気持ちが変わったとおっしゃっていましたが、辞めると決めた時、会社と対等の感覚になったんじゃないかと想像するんです。たくさん会社辞められてる尾原さん、このあたりいかがですか?
尾原和啓(以下、尾原) 対等って大事なんですよ。でも一方で、会社って僕にも投資してくれるわけですよ。その投資をお返しした上での対等ですよね。やっぱりそこはすごく意識して僕は生きてます。
——多くの人は、でもやっぱり会社を辞めるのが怖いんです。辞めたらどうなっちゃうんだろうと。楽天の三木谷さんにインタビューした時、当時、銀行を辞めたら地獄に落ちると言われたとおっしゃっていました〔※〕。尾原さんも年代は近いですよね。
※楽天株式会社の創業者で現・代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。1995年に同銀行を退職して、楽天の前身となるコンサルティング会社クリムゾングループを設立した。
尾原 僕の場合、これは小野さんとの共通点かもしれないんですが、やっぱり会社を売る以前に、個人を売る仕事でもあったんです。コンサルティング会社にいましたので、マッキンゼーっていう看板があるからお仕事をいただいているものの、やっぱりプレゼンする時はお客様の前で個人で立って、尾原と仕事してよかったって言われるよう意識していました。実は2職目のドコモとの契約って個人契約なんです。
左:リモートロボでご登壇の尾原和啓さん 右:著者の小野直紀さん
小野直紀(以下、小野) そうなんですか!
尾原 はい。だからもう2職目の時にはフリーランス的な生き方をしているんですね。でも、ドコモという大会社のなかでiモードの立ち上げという、ドコモという会社のリソースを使わないと絶対できないことをやらせていただいたわけです。
貴重な経験を持っている人は、世の中から求められる
——当時それってたぶん型破りな働き方だと思うんですけど、いわゆる「一般的に」とか「普通は」とか、そういうのはあまり頭の中になかったんですか?
尾原 僕の場合は若干特殊で、大学生の時から自分で商売をやっていて、年収600万くらいあったんです。だからいつでも戻れる、と。そうすると、やっぱりリスクとったほうが得じゃないですか。実はいろんな方の転職相談に乗るんですけど、辞めたらダメになるんじゃないかって不安が大きいんですよね。
15年ぐらい前だったら、転職13回やってる僕みたいなのは人間のクズですけど(笑)、一般的にはやっぱり、2回以上転職するとジョブのオファーはなくなる、みたいなことがかつてはありました。でも、今って変化の時代だから、貴重な経験を持ってる人は、ものすごく世の中から愛されるわけです。
だとしたら、一回起業してみて失敗した人のほうが、実は大企業の中で採用されるかもしれない。だから自分っていうものの価値をちゃんと測り続けるということが大事だと思います。
小野 尾原さんは世代的には僕よりちょっと上なんですけど、たぶんその時代にそれだけ転職を繰り返すみたいなことは、ものすごく新しいし、特異な、独特な、ユニークな生き方だなと思います。
でも今は、僕の周りもそうだし、世の中的にも、めちゃくちゃ転職する人が多いじゃないですか。そうなった時に僕は、あ、辞めるの、めっちゃ普通だな、と思っちゃったんです。
転職して年収が上がる人とは?
小野 転職する人が増えたのは、尾原さんのせいもあるかもしれないですけど(笑)、たぶん素晴らしいことだし、行った先でやりたいことをやって、自分の力を試すのはすごくいいことだと思うんです。けど一方で、面白い人たちがどんどん辞めてくのが悲しかったんですよね。
自分もその後を追っていく選択肢はいつでもできると思った。だから、会社の中でしかできない、会社を出なかったからできる変なことってないかな、と今は考えてやってます。
尾原 転職は普通になりましたけど、大事なのは、本当ににその会社のよさを自分で身につけたか、です。統計で見ても、実は転職すればするほど年収って下がるんです。だって新しいことにチャレンジするってことは、今までの経験を何かパーにしなきゃいけないじゃないですか。そうするとやっぱり下がりますよね。
唯一、次の転職で年収が上がるのって、前で培ってた経験だったりネットワークだったりスキルが、次の会社でめっちゃ珍しいところです。
今の会社ならではのことを研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、次の会社で「珍しい」になるんですよ。そういう意味でも、会社を使い倒したほうが絶対にいいんです。
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