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「出来たわよ、カレー」
菜月に呼ばれて鈴木もテーブルに着いた。
二人は、外交官宿舎の鈴木の部屋にいた。2LDKの部屋である。
菜月は初めて入ってみて、その広さに驚いた。使われているものが全部アメリカ製であると知って、もう一度驚いた。
一緒に住んでも快適そうである。
「おいしそう」
鈴木が反射的に言った。本音だった。
鈴木は自分の母親の作るカレーが大好きだった。
「気にすることはないわよ。結局はあなたの調査が犯人の特定に繫がったのだから。それに、まだ証拠がないのでしょう」
確かにそうだった。状況証拠だけで物的証拠がない。
NCISも自供頼みだろう。それも任意での尋問となる。
逮捕することすら無理だろう。
金塊が絡んでいる殺害をサントスがそう簡単に自供するとも思えない。
結局は、事件も金塊の謎も迷宮入りと処理されるのが落ちである。
(そうなったら、本当に金塊探しでもしてみるか)
菜月といることが鈴木の心を軽くしていた。
一口カレーを食べた。
予想通りにおいしかった。
その時携帯が鳴った。
ギッブスだった。
鈴木は席を立った。
“Santos deployed and died. ”
(サントスは救助作戦に出発して、戦死した)
“Yes? ”
(はい?)
“He rescued the pilot but he was shot on the way back. ”
(パイロットの救出には成功したが、帰還途中で撃たれた)
“Yes. ”
(はい)
“But, he left his confession with his 22 to an NCIS agent. ”
(だが、自白のメモと二十二口径をうちのエージェントに残して行った)
“Confession?! ”
(自白?)
息が詰まった。
サントスが死んだ。
しかも出発前に自白したというのか。
“We can check the fire mark as soon as we’ve got the 22. Meanwhile, I am sending his confession note to your iPhone. ”
(発射痕は二十二口径が届き次第確認する。自白のメモは君のアイフォンに転送した)
鈴木が状況を把握できる前に電話は切れた。
すぐに自白のメモの画像が届いた。
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