性同一性障害を救った医師の物語⑮

たとえ罰せられても医師として覚悟の上。国や法律ができる前から医療は存在してるんだ」。性同一性障害の手術を約600例執刀した医師・和田耕治の知られざる物語。 日本国内で性転換(性別適合)手術がタブーの頃から自らの哲学のもと、性に悩める患者を救い続けてきた伝説の医師が今蘇る!書籍「ペニスカッター」より、本文を抜粋してお届けします。

性同一性障害を救った医師の物語⑮


前回からのあらすじ
患者の死因について、スタッフの証言も交えて取り調べは続いた。その3年半後にようやく、局所麻酔薬の過量使用、搬送遅延によるものとして書類送検されることとなる。耕治は内から外から追い詰められていった。

第10章 最も不幸な医療事故-3

刑事と民事は別と言いながら

医療事故に対する業務上過失致死適用への危惧について、および警察の立場がいかに医療事故の真相解明に不適切かについて、耕治は自身の見解を記者とのメールで述べている。

もし仮に、裁判所が警察の見解に与するなら、我々医者は自分の担当した患者に自分で治療にあたる自信が一〇〇%に満たない場合はすぐ転院、転送しなければ、あるいはそうしても転院先で治療が成功しなければ、転送元医師はもっと早く転送すべきだったと業務上過失を問われることになりはしないだろうか?
生命リスクそのものを取り扱う立場にたたされていながら、現実には事実上の限界のある治療しか行えないのが、多くの個々の医師の立場であるが、それ自体が常に刑事罰リスクと隣合わせというのでは果たして医療は成り立つのだろうか?なぜ欧米で、医療事故から原則的に刑事免責されているかといえば、刑事犯作りじゃなく、真の原因解明、再発防止策を見つけることの方が医療では患者と医師のために重要だと認識されているからです。被害者救済は別の次元で語られるべき問題でしょう。

日本では民事と刑事は別と言いながら、ことに医療事故では、民事が先行して解決していると、被害者の処罰を望む感情が薄いとかの理由で、不問にされたり、逆に民事が難航していると、簡単に刑事起訴されて、医療側被告を追い詰める傾向があります。刑事の民事不介入と言いながら実態は民事を横目で睨みながら、進んでいます。

そのことからも警察がいかに医療事故の真相解明に不適切、無関心な立場にあることかは明白です。 当院が事故後二年以上も、ご遺族から民事提訴のための資料請求を受けなかったのは、 当初話していたように事故の原因がわかってから話しましょうと理解していたからだと 思います。とりあえず事故後三年半たって警察は取り調べを終え、私を業務上過失致死で書類送検しました。罪状には一つも納得いきませんが、警察に反論する私の見解と、それとは別の私なりの反省や後悔の念の心情を理解していただければ、実のある民事的解決はそう遠くない日に実現したいと個人的には考えています。 (記者とのメールより)

このように事故に対する判断材料や資料は十分あるにもかかわらず、警察の捜査は異常に長く続いた。耕治は心身ともにボロボロになってしまった。警察は何とかして彼を業務上過失致 死の犯人にする結論を得るために働いていただけのようだった。 こんな残酷な日々の中でも患者さんのために、その光が途絶えないように尽力しながら、警察ともたった一人で闘い、医師として信念を貫き通していた。

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性同一性障害の手術を約600例執刀した医師・和田耕治のノンフィクション

この連載について

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性同一性障害を救った医師の物語

和田 耕治/深町公美子

「たとえ罰せられても医師として覚悟の上。国や法律ができる前から医療は存在してるんだ」。 性同一性障害者の手術を約600例執刀した医師・和田耕治の知られざる物語。 日本国内で性転換(性別適合)手術がタブーの頃から自らの哲学のもと、性に...もっと読む

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PagannPoetry 今週分、公開しています。性転換手術中の事故以降、原因究明は行われたが、手術の是非自体には触れられなかったのか。 “事故当初の私の危惧と違い、私の性転換治療が警察、検察には結局全く問題にされなかったことです。” https://t.co/icXLc6Ss1W 1年以上前 replyretweetfavorite