免許合宿で出会った、魔力に満ちた彼女

あなたには、気になる女の子はいませんか? この連載では、読者のみなさんから募集した「気になるあの娘」を、代わりに写真家の青山裕企さんが撮影しにいきます。今回は、免許合宿で出会った、Zauber(ツァウベル)に満ちた女性を撮ってほしい、と推薦のあった加藤さんを撮影してきました。

「この人は生きている」という雰囲気が、半径10mくらいまで出ていました。

 ドイツ語にZauber(ツァウベル)という言葉があります。魔法や魔力といったことを意味すると同時に英語のcharmに相当する、魅惑や魅力といった意味を持っています。このZauberという単語が出てくるもっとも有名なものはヴェートーヴェン作曲の交響曲第9番でしょう。「Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt ---」「おまえの(歓喜の)魔力は、時の流れが厳しく分断したものを、もう一度結び合わせる。---」作詞したシラーはZauberを人と人を結びつける不思議な力として書いているそうです。

 一昨年の夏、僕は自動車免許合宿に友達と山形の山奥に来ていました。暑い夏に古びた校舎で受ける授業ほど退屈なものはありません。学科の授業は教官が教科書の重要な部分を指名した生徒に音読させるというスタイルでした。指名された生徒の音読はだいたい二種類に分かれます。一つは、気だるそうに棒読みするタイプ、もう一つは小声で早口で終わらせてしまうタイプです。どちらにも共通しているのは「この年にもなって音読かよ……」という一種の気恥ずかしさのような気がします。しかし、彼女は違いました。「じゃあここ君読んで」という教官の声のあとに聞こえたのは、凛として教室を通り抜けてくる芯のある声でした。その、おだやかにはっきりとした声の主を探して教室の一番反対側の列を見ると、窓から入る逆光の中に、その声にふさわしい軽く背筋を伸ばした美人がいました。それが加藤さんです。僕は、あ、Zauberってこれかと妙に納得したのを覚えています。それくらい印象的でした。だいたい中高ですら音読でハキハキと読んでいる人なんて珍しかったのにそのレベルを超える音読を教習所で聞けるとは思っていませんでした。それが第一印象です。

 次の日、僕は教習所の待合ロビーのベンチで実技教習の順番を待っていました。次の次のコマです。待合室に二列あるベンチには15人ほどの人が座って、全員スマホを熱心に操作していました。すると、僕の横に加藤さんが座ったのです!(そこしか空いてなかったからです。)ちらと横を見ると白いイヤホンをつけた加藤さんが脚を組みながら文庫本を開いていました。胸が高鳴りました。21世紀に、学生が、出先の暇つぶしに文庫本を読むという光景がまだ絶滅していなかったんです。とにかくやはり、彼女は周りとは一線を画するZauberをはなっていました。普段周りをとおりすぎる他人って生きていない感じがします。ゲームでいうNPCです。普通、一見しただけではその人が生きている背景って見えないからです。しかし彼女からは出ていました。この人は生きているという雰囲気が半径10mくらいまで出ていました。

 教習の時間になってベンチにいた人たちが一人、また一人と待合室を出ていくと、最後に僕と加藤さんが残りました。加藤さんも次の次のコマだったのです。20分くらい、声をかけるかかけまいか悩みました。教習はまだ何日かあるわけですから今、不審者になってしまうと困るのです。が、声をかけました。「なんの本読んでいるんですか?」加藤さんは左のイヤホンを外しながらこちらに顔をむけ、突然声をかけられたことに驚く様子もなく本の説明をはじめました。「これは、流っていう本。免許合宿暇すぎてもう8冊も本読みました。」Zauberでした。いろいろ話をしてみるとどうやら同い年で同じ学年で立教大学に通っているらしいのです。なんで僕は北海道なんていったんだろうと深く後悔しました。そして、東京ってすごいとこなんだなと感動しました。岩手田舎人と神奈川都会人の文明交流でした。彼女の言動としぐさすべてがZauber(魔力、魅力)にあふれていました。時間にして20分くらいだったでしょうか、僕たちの教習の番がきて、ニヤッとしながらじゃあね、と手を振る彼女のZauberを見ながら僕は、田舎のあたりのきついすぐ怒る嫌な教官の乗る車に乗り込みました。

 結局彼女と合宿日程がかぶっていた3日間のなかで話したのは30分にもみたない時間でした。今までいろいろな人に会ってきて、美人な人もいたしかわいい人もいたし、面白い人もいたし、魅力的な人は多かったけれど、後にも先にもあの独特なZauberをもつ人間に出会っていません。彼女とはそれ以来全く交流はありません。写真が趣味らしく、彼女が教えてくれた写真投稿用のInstagramのアカウントが唯一の手がかりです。この青山裕企さんの企画を見て、真っ先に加藤さんが頭によぎりました。あの彼女にしかないZauberをぜひ写真にうつしてもらいたいです。よろしくおねがいします。

<次回は2月15日(金)更新予定>


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「気になるあの娘」モデル大募集!

本連載のために、あなたが気になる魅力的な女性を教えてください! 写真家・青山裕企さんが撮影してくださいます。以下の「応募要項」に沿ってご応募ください。


応募要項

「同じサークルのあの子が気になります」「会社にすごく美人なひとがいるんです」「行きつけのカフェの店員さんがかわいいんです!」など、あなたが気になっている女性を教えてください。

年齢、地域の制限はありません。

どうして彼女を撮ってほしいのかという推薦文と、その女性のお名前、出会った場所、お写真などをお送りください。

まだ知り合いじゃない、などの理由で、写真がない場合でも応募は可能です。その場合は、より一層”熱い”推薦文をいただければ幸いです。

想いがこもったご応募を、お待ちしております!

ご応募いただいた内容を見て、これは、と思った場合は、まずはcakes編集部からあなたにご連絡をさしあげます。その後、編集部と青山裕企さんが先方と出演交渉をいたします。

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件名を「気になるあの娘・モデル募集」にして、support@cakes.muあてにメールをお送りください。

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気になるあの娘

青山裕企

気になる女の子はいませんか? たとえば、昨日見かけたカフェの店員さん。恥ずかしくて話しかけられないけれど、あの娘の笑った顔がもっと見たい……。そんなあなたの願いを、写真家の青山裕企さんが叶えてくれます。

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コメント

cobol_amaki 紹介文によると、『流』(東山彰良)を読んでたんだって。そりゃドキドキしちゃうなあ。 4ヶ月前 replyretweetfavorite