GNP150億円の3分の1が消えた関東大震災

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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災害が幕末の混乱を加速

 東海地震翌日に和歌山・高知に甚大な被害を与えた南海地震が起き、さらに翌1855年は飛騨地震、陸前地震、そして江戸地震が発生しました。大河ドラマでは宮㟢あおい主演の『篤姫』で安政江戸地震が描かれています。この地震では江戸の低地の被害が大きく、特に日比谷入り江を埋め立てた今の大手町から丸の内で、大名屋敷が壊滅的な被害を受けました。
 水戸藩の上屋敷は残らず崩れ、水戸前藩主の徳川斉昭を支えていた藤田東湖と戸田忠太夫が圧死。尊王攘夷派の力がそがれたと言われています。水戸藩上屋敷は、現在の小石川後楽園、もとは江戸川と小石川が合流する沼地にあり地盤が悪かったようです。斉昭とはライバルの井伊直弼の屋敷は地盤の良い紀尾井町(紀州・尾張・井伊から命名)にあり損害が軽微でした。地震が直弼と斉昭の明暗を分けます。
 このような激動の6年間に、全国各地で11の大地震と暴風雨、コレラの流行が重なり社会が大混乱しました。
 ちょうどこの時期、日米修好通商条約や将軍継嗣問題で井伊直弼と徳川斉昭との対立が深まる中、直弼が大老に就任。安政の大獄が起きて斉昭は失脚し、斉昭を推した島津斉彬も急死しました。安政の大獄では吉田松陰も処刑されます。そして1860年に起きた桜田門外の変で直弼が落命し、一気に大政奉還へと向かうのです。
 幕府を倒した薩摩藩と長州藩は、この幕末の一連の地震で被害がなく、力をつけていきました。
 残念ながら、こういった幕末の災害史を私たちはあまり学んでいません。災害と歴史との関わりを学んでいれば、災害を身近に感じ、備えも本気になるのではないでしょうか。次に幕末を描く大河ドラマがあったら、地震の年表と一緒にドラマを観てみると、新しい発見があると思います。

関東大震災から開かれた大戦への道

 激動の時代といえば大正から昭和の戦乱期です。しかし、この時代を描いた大河ドラマはまだ多くはありません。山崎豊子原作の『山河燃ゆ』、三田佳子主演の『いのち』の2作品ぐらいです。戦前の関東大震災、戦中の東南海地震と三河地震、そして戦後の南海地震や福井地震を本格的に描いた大河ドラマはまだ登場していません。我が国の暗い歴史の一コマであり、まだ記憶に新しくて扱いにくいテーマなのでしょう。しかし、地震の続発と戦争、歴史の転換点に関係があることは間違いありません。2019年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では関東大震災などが描かれるようなので、今から楽しみにしています。
 1923年の関東大震災は、戦争への道を開く地震でもありました。
 死者約10万人のうち約7万人は東京での死者。約3万人は神奈川で亡くなりました。元禄の関東地震の方が規模は大きかったのに、江戸の死者は340人でした。200年後の地震の被害が大きくなったのは、東京の都市計画の失敗が原因だったと指摘できます。1809年に描かれた「江戸一目図屏風」と1920年ごろの鳥瞰図を比べると、全く町のつくりが違うことが分かります。武蔵野台地の東に広がる軟弱地盤に長屋を密集させ、町を広げたからです。江戸時代には武家屋敷として使っていたようなところにも、庶民が住む長屋が密集し、災害危険度が増しました。地価は高いので、家は密集し、安普請。耐震性もまだ低いものばかりだったので、揺れによる被害を増幅させました。
 さらに決定的だったのは火災です。地震が発生したのはちょうど炊事の時間。日本海側を通過中の台風の影響で強風が吹いていました。人々は初期消火に手間取り、火災の拡大を招きました。江戸時代も頻繁に大火はあって火消し役はいましたが、このころの家屋の密集度合いは前近代的な火消しで対応できるレベルを超えていたのでしょう。結局、関東地方全体で約37万棟の住宅被害のうち、焼失家屋は21万棟に上りました。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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