教育で「エスカレーター」というと、私立の一貫校などで、受験せずに内部進学することを連想するだろうか。
しかし今回触れたいのは、幼稚舎から大学まであるようなエスカレーター式学校法人のことではない。
子育てをしていると、子供のタイミングや思考をさておいて、親の一方的な基準から、「子に求める行動」を変更する瞬間がある。
子供たちはまるで、時間軸にしたがって期待値があがっていくエスカレーターに乗っているようだ。
本人は同じ場所にいるだけのつもりなのに、月齢が上がり、背景の色が変わると、急に親からの評価が厳しくなる。
この現象は子だけでなく、親もしんどくなる要因であるため、注意したい。
「はじめの一歩」を、ずっと褒めてはいられない
1歳をすぎ、食欲も順調な子は、少しずつ食事の自立準備をはじめる。
軽くて短い幼児用スプーンをあたえ、自分で食べ物を口に運ぶ練習をするのだ。
今まで親に食べさせてもらっていた上に、まだ手首や指が自由に動かないので、これがまぁうまくいかない。
握るまでに時間がかかることも多く、いざ握っても、お皿にたたきつけてガンガン音をたてたり、すぐさま投げつけたり、食事をすくいとるどころではない。
ただ、小さなまるい手が、はじめてフォークを握り、お皿に触れた日、たいがいの親はこれでもか!と我が子をほめそやす。
すごい!握れた!すくおうとしてる!!と、現実にはテーブルの上は散らかっているばかりで、本人の口になど入っていなくても、なんとなく大きな進歩をみたような気がして、写真を撮ってはしゃぎ倒す。
はじめて服を着ようと頭にかぶった日も同じだ。
前後が間違っていようと、腕が通っていなかろうと、すごく褒める。感動する。
「自分でやろう」という意思がわいたことを褒める。
なぜなら、その段階ではそれが合格ラインだからだ。
しかしこれが、10回やっても100回やっても進歩がないと、おやおや、どうしたものかな、と不満が生まれる。
スプーンデビューから2ヶ月経ったのにまだうまく使えない、4ヶ月経ったのに握らない日さえも出てきた…。
回数と時間を重ねているのに、スタートラインをうろちょろしている様子に、親は焦り、不安になり、ときにイライラもする。
そうなると、褒めることができなくなる。
ついには「どうしてちゃんとやらないの」「ちがうでしょ、できるでしょ」と子供を責めてみたり、「どうしてうちの子だけできないのかしら…」なんて暗い気持ちになる。
その気持ち、すごくわかる。
大人は子供がいつか集団生活を送るようになり、同級生と比較されながら生きていくことを知っている。
周囲が当然のようにできることができないと、バカにされたり疎外されたり、自己肯定感が下がり嫌な想いをすることもわかっている。
そのため、不自由させたくない親心から、「平均値を下回ること」が恐ろしい。
どんどん進歩して、できることが増えてくれないと、親の手も離れないので困ってしまう。
「はじめの一歩」の感動は、はじめてだからこそで、半年後も同じように喜んで褒めることは、なかなかできないものなのだ。
子供の世界と大人の世界
しかし、子供の立場で考えてみると、その要求の変化は、突然すぎて、よくわからない。
子供が理解している時間の概念はいいかげんなもので、4歳くらいまでは、過去はすべて「昨日」だったり、1年前を「さっき」だと言ったり、経験したことが大人のようにきれいに整理されていないようだ。
インパクトが強かったことや感情が動いた出来事を印象強く覚えていて、そのあいだが抜け落ちていたりもする。
小さな頭に全部は入りきらないので、当然だ。
「この前はひとりで食べられたでしょ」
「いつも帰ってきたら手を洗うでしょ」
これらの声かけに、「え?そうだったけ??」みたいなとぼけたリアクションがかえってくるのも、嘘をついているというより、単純に覚えていないこともあるのではないだろうか。
しかし大人は順序立てて記憶しておく能力があるので、過去と比べて成長してないことや、すでに習得したはずの能力を子が発揮していないことに気づいてしまう。
そして「もう3歳なのにできない」と成長速度にじれるのだ。
発達の目安表の普及や、成長のはやいお子さんの情報が世の中に溢れていることも関係している。
子供は2歳くらいになると、教えられた自分の年齢を覚えるが、「そろそろ2歳半だし、トイトレ意識しだしますか」や「3歳になるまでに服の着脱はマスターしたいな」なんて思うわけもない。
彼らの動機やヤル気を引き起こすのは、なんでもない日常の1コマであることが大半なので、月齢に合わせてスキルを向上させたい親とは、価値観が折り合うはずもないのだ。
「月齢基準」と「比較基準」は親も子も苦しい
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