ずっと頂点にいるなんてありえない
──山口さんは2016年あたりから引退を仄めかし始めましたよね。
山口 そうそう。2015年ぐらいから、母ちゃんの認知症が激しくなってきちゃってね。しょっちゅういなくなっちゃうんだよ。酷い時は松戸から綾瀬まで歩いて行っちゃったりね。で、イイ具合に仕事もなくなってきたんで、そろそろ辞め時だなって思い始めたんだよ。で、2016年の2月になると、母ちゃんは毎日のようにいなくなるようになっちゃってさ。これはいよいよだなって思って決心したんだよな。まぁ、今考えると親が認知症になってなかったら、とくに情熱もなくダラダラと仕事をやってたかもしれないしな。いいキッカケをもらった感じはあるんだよ。前も話したけど、自然の流れに身を任せた結果だね。
──前章でも話してましたけど、デザインという仕事自体にも不満があったんですよね。
山口 あんまり楽しくはなかったな。デザインなんてたいした仕事じゃないよ。やっぱり書籍のデザイナーって、たとえデザインした本がいくら売れてもオレの成果じゃないし、デザインで売れてるってわけじゃねぇだろうしさ。デザイナーが自己主張するのは良くないっていう考えなんだけど、そのぶん欲求不満だったよね。
──その欲求不満はいつぐらいからですか?
山口 ずっとだな〜。オレさ、よく「どうしたらデザイナーになれますか?」って聞かれたりするのよ。でも、ほぼ社会不適合者のオレでもなれたんだから誰でもなれるよ。みんな気がついてないだけでさ。まぁ今からデザイナーになりたい奴がいるなら、まず人のデザインなんかする前に、自分のデザインからしたほうがイイよ、って言ってあげたいね。それだけだな。
──カッコいいこと言いますね!
山口 あとはさ、フリーになってデザイナーとして15年やってきたんだけど、それって岸辺から沖のほうに出て自由にしてたってことじゃない。わざわざフリーランスになる奴って沖の方まで出ていきたいっていう意識があると思うんだよな。だったらやっぱり一回は岸に戻ってこないとダメだと思うんだよ。浅瀬でウロウロしてる奴っているじゃん。サラリーマンとかはそれでいいと思うんだけど、ずーっと沖にいる奴っていうのはたんに遭難してるってことだよ。これはどういうことかというと、やっぱり人間、ずっと頂点にいるなんてありえないと思うのよ。自分がダメになったことを見極められないとな。
──去り際の美学ってやつですかね。
山口 そうだなぁ。最後までしがみつくダサいやつにはなりたくねぇよな。オレはデザイナーとして15年ぐらいやってたけど、周りを見渡してもわかるように、どんな人間でも一生のうちのピークって10年ぐらいだよ。
──それは仕事のうえでのピークってことですか? それとも人生のピークですか?
山口 総合して「輝いてる時」っていう意味かな。
──山口さんから見て、ずっとピークの人っていませんか?
山口 キムタクぐらいしかいねーな。
──テキトー! でも、キムタクはキムタクで、SMAPが解散しちゃったりと混迷期もあったんじゃないですか?
山口 そうか〜。オレも混迷期だから他人とは思えないな。いつもオレってキムタクとシンクロしてるのよ。キムタクが髪の毛短いとその時期はオレも髪の毛が短いのよ。
──この世でもっともどうでもいいシンクロですね。
山口 ちなみにキムタクには間違えられたことはないけど、野村義男には間違えられたことあるよ。タクシー乗ってたら「お客さん! たのきんトリオでしょ?」って言われたことあるな(笑)。
ウチの親父は死ぬ直前までドスケベだった
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