前回、「寝ぼけた彼に前妻の名前で呼び間違えられて深く傷ついたけれど、前妻との思い出の品をすべて処分してくれたので、今は夫の愛情を疑わずにすんでいる」というエピソードをお伝えしました。
それ以来、彼と喧嘩をすることはずいぶんと減りましたが、内心では、「どうせ私なんて……」と劣等感で落ち込んでいた時期がありました。
なぜなら、前妻は私に比べて良い家柄のお嬢様だったし、華やかな仕事をしていたからです。家柄面・仕事面でハイスペックの前妻と比べて、「ザ・普通」を極めている私は、前妻へのコンプレックスに苦しみました。
今回は、「前の奥さんの方が、自分よりスペックが高いから嫉妬をしてしまう」という悩みをどう乗り切ってきたかをお伝えしていきます。
ただのOLだった私
私は、地方の中流家庭で生まれ育ちました。実家は父が30年ローンで購入した土地付きの建売住宅で、家族の仕事も普通です。
そして、私自身も秀でた能力に恵まれているわけではありません。専門学校を卒業して採用された会社では、有名な大学を卒業した同期たちが研究・開発などの専門的な仕事を任されるなか、私だけが、「事務職のOL」として働いていました。
とはいっても、普通に生きていく分には十分なお給料をもらっていたし、生まれ育った家庭も好きなので、これといった問題を抱えずに生きてきました。
……夫と前妻の家柄や、職業を知るまでは。
結婚に向けての話し合いを進めていくなかで、夫が「良いおうち」の出身ということを知りました。ご実家は以前、先祖代々伝わる広い土地に大きなお屋敷を構え、お手伝いさんを5人も雇っていたそうです。
夫から時々伝わってくる「良い家ならではのエピソード」に私は「へえ、世の中にそんな家が実在しているんだなぁ。小説の設定にありえそう」と圧倒されていました。
しかし、前妻も良い家柄のお嬢様で、能力に長けたハイスペックな女性、ということを知ったとき、心がザワつくようになりました。
卑屈に思う気持ちが止められない
夫の話によれば、前妻は帰国子女。生前はアメリカのピアノ教室で働いており、たくさんの生徒さんにピアノを教える傍ら、ときどき著名なピアニストの海外公演のサポートをするなど、とても華やかな日々を送っていたそうです。
プライベートでも、休日に生徒さんや同業者とのホームパーティーへ夫を伴って出かけることもあったとか。(ファッション誌の着回し特集に出てきそうな生活ですね。)
また、前妻のご実家も地方に大きなお屋敷を構える「良いお家」であることや、ご兄弟も誰もが名前を知っているような有名企業で出世して、バリバリと働いていることも夫から聞かされました。
「他人の職業や家柄を気にするなんて、賤しいやつ!」と思われるかもしれません。でも「前妻と比べて、私は釣り合っていないのかも」というのが、正直な感想でした。
前妻と比べて私はなんて地味な女なのだろう……。
前妻が亡くならなければ、夫は刺激的な毎日を送れていたのかもしれない……。
前妻のようなスペックの高い女の方が、「自慢の妻」なのかもしれない……。
夫からスペックのことを何か言われたわけではありません。ただ、私としては、前妻と私を格付けして、卑屈に思う気持ちが止められませんでした。
でも、ある時気づいたのです。
「死別という経験を乗り越えた後に選ばれている私って、ひょっとしたら前妻のスペックを超えているのでは」と。
選ばれた私ってすごい
死別に限らず、人はさまざまな経験を乗り越えながら生きています。そして、新しい経験をするほど、考え方や行動がアップデートし、あたらしい自分になっていくものだと私はとらえています。
たとえば、「働いたことのない自分」と「働いたことのある自分」を比べると、明らかにアップデートしていますよね。
それと同じように、前妻と暮らしていたときの夫と、死別を経験した後の夫は、もはや別の生き物と言えます。そして、壮絶な経験を乗り越えていく中で、それまでよりも自分自身と向き合いながら生きてきたことでしょう。
たしかに、一般的なものさしで測れば、華やかな仕事をして、家柄のよい前妻の方がスペックが高いでしょう。
でも、「パートナーの死別」という、一生に一度あるかどうかという経験を乗り越えて大幅にアップデートされた彼は、私を結婚相手として選びました。
そして、それだけではなく、私が嫌だと言えば前妻の話をすることもやめてくれたし、前妻の持ち物をすべて捨てて、遺骨まで前妻のご家族へお返しするという、思い切った行動もとってくれました。(詳しくは、第2回「奥さんを亡くした彼と出会ったときのこと」、第4回「寝ぼけた彼に、前妻の名前で呼ばれて」でお伝えしています。)
それって、並大抵の覚悟ではできないことです。
それに、よくよく考えてみれば、私だってスペックの高い元カレと付き合って失敗していたのです。
大事なのは、今の自分にとってのスペック
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