産前からとにかく不安や心配をたくさんしてきた。生まれる子がもし女の子で、大きくなって「お風呂なんで先に入ったの!?」と責めてきたらつらすぎるとか、子供の外見がおれに似たら苦労かけちゃうとか、夜全然寝ないパリピ生まれてきたらつらそうとか。想像のつかない未来はどうしようの祭典だった。
その祭りのトリを務めたのが「誰にも頼れなかったら」というものだった。この東京には親はおらず、おれと妻のふたりで子育てをするほかない。駅からも距離があるし、何かあったら誰か頼れるだろうか、ご近所でいわゆるママ友パパ友を作れるだろうか。これまで人一倍ひとり遊びを繰り広げた身分なのに、新しい命を守る立場になって急に「どうしよう! ぼっちじゃん?」となってきた。
そして、子供が産まれ、2019年1月。男児は生後8ヶ月を迎えた。厳しい寒さと色々しんどい日本の真冬ではあるものの、おれたちはまあ健気にやっていけてる。孤独を感じることは、幸いなことにまだそんなにない。出産以降、いろんな人が引き寄せられてきてくれたからだ。
抜群の吸引力は赤子から発せられていた。例えばイオンモールにベビーカーを連れて行くとする。すると野生のおばちゃんが「あらー!」と寄ってくる。
はじめはちょっと距離を置いたところでパッカーッと顔をほころばせ「かわいいわあ、かわいいわあ」とこちらに話しかけるでもなく口にしていて、我らはそれをヘラヘラ見守る。するとおばちゃんはその間合いを詰め、勝手に足とか触りだすのがセオリー。えっババア近っ。でもだいたいこんな感じ。ほかには「うちにもいるのよお(知らんし)、1歳半なの(けっこう離れてるし)」という会話を始めたり、何かを思い出して泣かれたりしている。最初はびっくりしたけれど、子供もニコニコしているしありがたい。
あと、電車内でも周りにいる人が勝手にうちの新人をもてはやしてくれる。横とか後ろで明らかに変顔して笑わせてくれる人なんかも少なくなくって、「これ……おれはどう接したらいいんだろう」と、なんとなく気づかないふりをしたままだ。小さな戸惑いはありながらも、そんな形で子供が社会との接点を引っ張ってきてくれるので、自分たちもそれにあやかれて結果さみしくない。
こうした社会とのコミット以外にも、自分に寄り添ってくれている社会というものがある。
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