フリーターって就労形態はいつから?

【第11回】1989年にタイムスリップしたトリコは、伝説のユニット「ドルフィン・ソング」の事件を防ぐべく、奔走し始めた。だが、まずは生活を安定させるためスーパーのレジ打ちで生計を立てるが、真面目な働きぶりから正社員の誘いを受ける。そういえば「フリーター」という就労形態はバブルのこの頃からではなかったか。

11 消費税

 四月一日になった。私がこの時代に来てから、およそ三カ月が経ったことになる。

 この日は、日本の歴史において、大きな一日となった。消費税が導入されたのだ。テレビや新聞はこの日の騒動を大きく取り上げた。ガムひとつだろうと、買い物の際に三パーセントの税金がかかる。年齢に関係なく、国籍を問わず、誰であろうと買い物の際に、強制的に徴収されるのだ。百円と表記された商品でも、百三円が必要になる。言うまでもなく、店も対応に大わらわだった。全部の商品のラベルを張り替え、税務署のレクチャーを受けた。レジにもひと手間が加わる。前日まで駆け込み需要があったが、四月一日を過ぎると一気に景気が冷え込むのではないかと店長は気を揉んでいた。

 私が働いていた店ではなかったが、便乗値上げも目についた。消費税が適用されるのは「年間三千万円以上の売り上げがある店」なのに、古ぼけた小さな金物屋さえ、レジに商品を持っていくと三パーセント上乗せされた。

 それなりに慌ただしい日々を送っていたが、ひとついいことがあった。

「事務室まで来て下さい」と店長に言われた。何をやらかしただろうとドキドキしながら行ってみると、正社員の誘いだった。

「前島さんは勤務態度もマジメだし、無遅刻無欠勤だから」

 素直に嬉しかった。パートのおばちゃんともおかずを交換できるほど仲良くなっていたし、業者の配達員とも冗談を言い合えるぐらいに、店に馴染んでいた。

 しかし私は、ズルズルとここに骨を埋めてしまいそうで怖かった。

 考えさせてもらってもいいですかと、慇懃に頭を下げた。

「こっちも急がないから。まあちょっと考えといてよ」

 三人の子供がいる、仕事には厳しいが、決して怒鳴ることのない店長だった。素性の知れない自分を雇ってくれたことに感謝していた。

 が、しかし、短大生のアルバイトを孕ませたことがあるとパートのおばちゃんから聞かされたときは軽く絶望した。どうして男という生き物はみんなこうなのか。

 ひとりひとり急所を蹴飛ばしていかなければあいつらはわからないのかと嘆息した。

 俯く私を、店長は笑い流してくれた。

「前島さんだけでなく、若い子たちも社員になんかなりたくないって言うんだよね。いまどきは仕事もいっぱいあるからなあ」

 そうだった。この頃からではなかったか、フリーターという就労形態が世間に浸透し始めたのは。

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