性同一性障害を救った医師の物語⑦
前回からのあらすじ
性転換手術の研究に熱心になっていく耕治であったが、しかしまだ表向きは一般的な美容形成外科であった。やがて質を追求する耕治のもとには、多数のニューハーフがつめかけるようになる。
第6章 開業へ
日本のGID患者のために立ち上がる、安い費用で!
説明が丁寧だったし、術後のケアもこまめにやっていた。ついには「もっと安い料金で手術をしてあげたい」と、自ら開業してしまったほどの患者思いだったのです。 (手術を受けたニューハーフ、『週刊新潮』二〇〇二年四月一八日号)
耕治は、全国各地で様々な患者に接すれば接するほど、先進国であるはずの日本において、GID(性同一性障害)治療に関しては最も後進国ともいえる惨状に、不憫でならなくなっていた。
私は医療というものはまず第一に患者さんのためにあるべきであって、国や社会のためにあるのではないと考えています。たしかに医師免許は法律によって与えられるものですから、法を守ることは当然ですが、医療は何よりも患者さん自身のために存在すべきです。しかし日本では不幸なことに性同一性障害に関する治療については長い間無視されてきました。私は患者さんを前にしてそのような日本の現状はやはり間違っていると思いました。誰かが患者さんのために真剣に取り組まなければならないと考えました。 (記者とのメールより)
色々な課題があったが、まずは自分に求められ、できるようにしなければならないことは良質な手術を提供することだと耕治は考えた。治療の制度や仕組みができる前に、待ちきれずすぐにでも手術を受けたいと考え悩んでいる患者たちが、目の前にたくさんいたからである。そしてこの治療を金儲けの手段にしていると見られてはいけないと考え、できるだけ安い治療費で行うことを決めた。 耕治が性転換手術を始めた頃、当時のMTFの患者たちは主にシンガポールやタイに行っていた。
とくにタイは物価が安いため手術費用が安く八〇万円程度で受けられた。耕治は日本でもその程度の費用でできるように工夫を重ね、タイよりもさらに良質な手術とアフターケアを 提供できるように努力し、すべての工程を九〇万円程度で引き受けることにしたのである。欧米先進国のMTF ̶ SRSの平均は一万五千〜三万ドルと言われていた。
費用削減する上で最も手っ取り早いのは、自院を開業することだったのだが、高給取りでもなく資金もない。しかしまもなく、否応なしにそうせざるをえない事態が起こる。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。