「山小屋の人って、冬の間は何してるんですか?」
そう聞かれるたび、内心で「またか」と思う。
山小屋は季節労働だ。晩秋、小屋を閉めて下山した時点で雇用契約は終了。つまりは毎年毎年「職を失うタイミング」があるわけで、はたから見ればたしかに興味深いだろう。
だから、お客様や新人スタッフからよく「冬の間何してるんですか?」と聞かれる。
聞かれること自体は嫌じゃないのだけど、あまりに頻繁に聞かれるから、少しウンザリするときもある。
今回は、そんな冬の過ごし方について。
山小屋スタッフは冬の間何をしているの?
冬の間の過ごし方は人それぞれだけど、ざっくり分類すると下記の3タイプ。
①毎年同じ職場で働く人
②毎年違う職場で働く人
③働かない人
私も季節労働者になるまで知らなかったけど、「冬の仕事」は意外といろいろある。
住み込みだと、酒蔵、スキー場、スキーインストラクター、ホテルやレストラン、みかん農家、オリーブ農家、キビ刈りなど。
住み込みじゃないものでいえば、オフィスワークや販売、引越し屋さんなどだ。
上記の分類でいうと、「オレは毎年○○って酒蔵で働いてるんだ」という人は①で、「去年の冬はニセコでバイトしたけど、今年の冬はどうしようかな~」という人は②に当てはまる。
私はというと②だった。冬の間はコールセンターなどで短期バイトすることが多かったけど、職場は毎年違った。
さて、下山まではひとつ屋根の下で生活していたスタッフたちだけど、下山後は全国各地に散る。それぞれ地元がバラバラだし、住み込みの仕事もあちこちにあるからだ。
スキー場で特に人気なのは、北海道・長野・新潟あたり。みかん農家は和歌山や愛媛だし、オリーブ農家は小豆島、キビ刈りは沖縄。
SNSのタイムラインを眺めると、「みんな、あちこちにいるなぁ……」としみじみ思う。
働かない人は何をしてるの?
冬の間はいっさい働かず、山小屋にいる間に貯めたお金で生活する人も多い。
働かない派に多い過ごし方は旅だ。トレッキングやバックパッカー旅、自転車旅など。
徒歩で日本を縦断したことから「ジュウダンさん」というあだ名がついたツワモノもいるし、ベテランのジョニーさん(仮名)は毎年、夫婦でタイに滞在している。花粉症シーズンに日本を離れられるなんて、なんとも羨ましい。
旅以外では、写真や絵などの創作活動に取り組む人もいる。
冬の間に作品を創ったり、展示をしたりするから忙しそう。雪山に登っては写真を撮っているアマチュア写真家もいたのだけど、彼は写真家が本業になって山小屋を辞めてしまった。
春~秋は山小屋で働いて、冬はやりたいことをやる。
それだけ聞くと、ものすごくキラキラしたライフスタイルに思える。
だけど中には「実家で毎日ゲームしてる」という絵に描いたようなニート生活を送る人もいて、それはそれで、満ち足りているように見える。
冬の仕事が過酷すぎて逃げ出した後輩
「冬の仕事、住み込みで何かオモロいのないですかね?」
下山が近づいてきた秋、新人の綾野君(仮名)が言った。
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