☓☓の匂いのする女の子は好きですか

作家・王谷晶さんの「女のカラダ」を考える爆走連載、 今回のテーマは「匂い」。女の子のいい匂いは何でできてる? ……〈後付品です〉。付けてる人が自分で嗅いでて落ち着く匂いとは? 〈朝一番のパン屋の匂い、夏の終わりの海の匂い、あの店のベーコンエッグの匂い、夜中の駐車場であいつがバイクを360度ターンさせたときのタイヤの焼ける匂い〉。叙情の王谷晶をお楽しみください!

ノー・スメルスライクティーンスピリット

私の本業は下ネタ製造機ではなく一応小説家なのだが、情景などを書くとき若干悩みがちなのが「匂い」の描写だ。成人するまで蓄膿症を患っており、あらゆる匂いがよく分からない人生を過ごしていたからだ。症状は今思うとけっこう重くて、カレーの匂いとかドブの匂いみたいなパンチのあるスメルでも感知できないことが多々あった。

「鼻の穴に超長い金属棒を挿入する」「細いホースを鼻に突っ込んで水を流しっぱなしにする」等の電撃ネットワークのようなハードな治療の末いまは快癒しているのだが、よって青春の記憶に「匂い」があんまり無い。どっちかというと嫌な思い出のほうが多い。自分には匂いがぜんぜん分からないのに他人には臭いと言われるアレである。各所に書いてるが子供時代から今に至るまでわりかしエクステンデッドな貧乏暮しをしており、学童期も風呂は三日にいっぺん入れればいいような環境だった。今こそ毎日風呂に入れるにもかかわらず人に会う用事がなければ平気で一週間顔も洗わない生活をしがちな私だが、当時は学校でくさいくさい言われてほんとにイヤだった。また貧乏のくせにロハス家庭だったもんで合成洗剤の類は一切使用不可、洗い立ての髪も洗濯した服も廃油石けんくさいという理由でハブられがちであった。自分じゃ分からない匂いのことであれこれ言われるのはしんどい。なので一人暮らしを始めて真っ先にしたのは、合成香料がゴリゴリに入った洗剤とシャンプーとコンディショナーとボディソープを買って、全身を人工的なフローラルスメルで覆い尽くすことだった。自分の身体や服からケミカルな匂いがするのを感じて、これでやっと「世間」に参入できたとほっとしたもんである。

好きなあの子のあの匂い

世間様?ケッ!(中指を立てるemoji)みたいなわたくしにもそういうウブい時期があったわけですが、しかしこれ、私が男子だったらあんなに気に病んでたかなというのはちょっと思ってしまう。「女の子はいい匂いがして当たり前」みたいな「世間様」の空気に染められていた感はある。

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どうせカラダが目当てでしょ

王谷晶

脱・ライフハック! 脱・ヘルシー! ウェルカム非生産! 「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのはだあれ?」女子なら一度はかけられる呪い。でもその美しさって本当は誰のためのもの? “女と女が主人公”の短編集『完璧じゃない、あたしたち』が...もっと読む

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コメント

crolloogni ねこはいい匂いがします(同意) 4ヶ月前 replyretweetfavorite

mukuobake https://t.co/rFVpZPyjKL 今週の王谷晶さんのcakes連載の「着の身着のままでオシャレで可愛く、そのうえ風呂にも入らないのにいい匂いがする、猫というのは生命体としてほぼ完璧な存在である。」があまりにも真理だった…… 4ヶ月前 replyretweetfavorite

taso_LT うちのヨルさんもパンみたいなエエ匂いがする(猫がパンの匂いってベンジーの刷り込み?)- 4ヶ月前 replyretweetfavorite

enmami000 面白くて流れるように読んでしまったのだけど、一番同意した一文は「詩は徒労に忍び寄る」だった…。よりによって。 https://t.co/VllkpSIy3T 4ヶ月前 replyretweetfavorite