淋しい女(ひと)は太る」は真実か?

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は食欲と性欲の関係性について。30年前に発売された書籍のタイトル『淋しい女(ひと)は太る』を見て、当時18歳だった森さんは何を感じたのでしょうか。

食欲と性欲はリンクしているのだろうか。

肥満、メタボ、端的にデブ。職業的にその体型が良しとされる人以外、太っている人はやり玉に上げられやすい。とかく女性芸能人なんかだと、ちょっと太ったり痩せたりするだけで、やれ劣化した、やれ離婚秒読みか、だのと騒がれる。SNSやYouTubeが普及したおかげで、素人と著名人の境目が曖昧になった昨今、一昔前よりも顕著に、皆が体型を気にするようになってしまった。太った痩せた問題がパンデミックのごとく広まっているのだ。

30年前に発売された、女心をかき乱す書籍

外見において他人からの評価を怖れるのは女性が大半だろう。ダイエットなんて、趣旨や趣向は違えど時代を選ばず誰もがかかってしまう病みたいなものだ。かくいう私も十代後半から二十代前半までダイエット地獄に陥ったクチである。過食症あるいは拒食症(アプローチは異なるが根源は紙一重)の一歩手前まで足を踏み入れた。当時の私は決して太ってはいなかったが、痩せてもいなかった。いたずらに巨乳で丸顔だったため、印象的にふっくらしていたのである。

時は1988年、私が18歳の頃、女心をかき乱す書籍が発売された。『淋しい女(ひと)は太る』だ。私と同世代の女性なら、鮮烈に記憶されているのではないだろうか。実のところ、私はこの書籍を読んではいないので、内容について言及するのは気が引ける。とても興味があり読みたいのは山々だったのだが、手にしてしまうと「私は太っている。私は淋しい」と自分で認めているようでこわかったのだ。

さらに言えば、認めているようでこわい、と躊躇したということは、事実私はさみしかったのだろう。そのさみしさを体重と結びつけるのは、あまりにつらい。とはいえ、この書籍は爆発的に売れた(と思う)。かなり話題に上がり、連日ワイドショーなどであれやこれや議論されていた(と思う)。歯切れが悪くて恐縮だが、当時の私がダイエットに憑りつかれていたため、良くも悪くも鮮烈な思い出として脳裏にこびりついているのだ。

欲求不満=性的に満たされていない?

「淋しい女(ひと)は太る」。なんて残酷なタイトルだろう。さみしいとひとことに言っても、様々な意味があるが、成熟した女性が「さみしい」とつぶやくと、「欲求不満=性的に満たされていない」という風に見られてしまいがちだ。彼あるいは夫がいないからさみしい、セックスしていないからさみしい、またはセックスしていても満足していないからさみしい等々。充実したセックスライフ=スレンダーな女性って、単純な公式が成り立ちそうだよな、と鼻白む。いやいや、それは言い過ぎだよってさすがに私もわかっているけれど。

でも当時18歳だった私、ダイエットしてもいまいち効果がでないのは彼がいないから? と本気で悩んだ。だから、適当な相手とセックスだけしてみた。いくら繰り返しても痩せないし、太りもしない。ただ、むなしくなって、余計にさみしくなっただけだ。

セックスは全身運動だし、うまくやれば確かに痩せるかもしれないけれど、その分空腹にもなるからたくさん食べて太るかもしれない。やりすぎて痩せぎすになる可能性だってある。そもそも満たされない性欲を食欲で満たすなんて無理がないか? だって、どうしても今すぐセックスしたいけれど誰もいないからカップラーメンを食べてスッキリした、なんて話は聞いたことがない。

まあ、よくてオナニーかなと思うけれど、セックスとオナニーを別物とする人だっている。ていうか、そのほうが多くないか? ああ、満たされない性欲を無理に食欲で満たそうとするから、余計にストレスがたまって食べまくるという悪循環なのだな。なるほど。

だったら、痩せている人はさみしくないのかな、と不思議になる。痩せている人は人生においてすべてオッケーなわけ? そんなわけはないのに、そうなのだと18歳の私は確信していた。ダイエットに憑りつかれると、思考そのものが危険になる。痩せている人はすべてにおいて愛にあふれた毎日を謳歌していて、太っている人はすべてにおいて不満だらけで孤独でさみしいのだと、私と同じなのだと安心し、同時に軽蔑するのだ。

胃に入れて嘔吐するよりはマシだと思った
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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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