家事は得意なことをやればいい
松尾たいこ(以下、松尾) 由佳里さんのお宅は、家事の分担はどうされていますか?
渡辺由佳里(以下、渡辺) 家事の分担は、得意なほうが得意なものをやっています。私は料理が好きなので料理。力仕事はできるかぎり夫にまかせています(笑)。
松尾 たとえばどのような仕事ですか?
渡辺 私が住んでいるアメリカ北部の郊外は、雪や嵐で停電になるし、いったん停電になると何日も続くので、いい発電機を買ったんです。でもその発電機はすごく重くて、ガレージから出すのは大変。そういうのは夫の仕事です。また、月に一度はエンジンをかけてオイルも数ヶ月で変えるなどメンテナンスをする必要もあるんですが、これも夫です。夫はビンテージ自動車の部品の雑誌を購読していたことがあるくらいエンジンが好きなので苦でも面倒でもないんですよね。ゴミ出しも夫の担当です。彼はゴミ出しにプライドを持っていて、「あなた忙しそうだから私がやるわよ」と言っても、「いや、これは僕の仕事だから」とそう簡単に手渡さない(笑)。彼が出張で留守のときには「今日はゴミの日だから、あれとそれを出すのを忘れないように」とメールがきます。
松尾 うちは夫(ジャーナリストの佐々木俊尚氏)が料理好きなので、完全におまかせしています。あと彼もゴミ出しは好きですね。やっぱりうちも、出張先から「たいこ、木曜が生ゴミの日だからね」などとメッセージが来ます(笑)。
「ありがとう」と「おいしい」の効能
渡辺 相手が普段担当している家事を手伝ってあげるのはいいけれど、夫婦でやり方が違って「そのやり方は正しくないぞ」とイライラすることってありますよね。松尾さんと佐々木さんにもあります?
松尾 ありますね。夜、彼が会食で家にいない時はお総菜を買って食べたりしているんですけど、いつもは彼が食器まで洗ってくれるので、悪いから自分で洗って棚に戻すじゃないですか。そうすると、お皿の重ね方が自分とは違ったみたいで、彼が夜中に帰ってくると、キッチンから「ガッチャンガッチャン!」と直す音が聞こえてくる(笑)。
渡辺 その気持ちわかります! うちはアメリカらしく食洗機なんですが、たまに彼が後片付けで食器を入れてくれることがあります。でも、私が長年かけて編み出した合理的な方法で入れないんです。でも、「そんな入れ方したらお茶碗が割れちゃう…」と思ってもあえて口にせず、後で気づかれないようにそーっと直します。だって、せっかく手伝っているときに、ケチをつけられるのって誰でも嫌でしょう?
松尾 ほんとうにその通りですよね。文句ばっかりいわれたら、「やってやってるのに!」って思ってしまいますよね。
渡辺 そうですよね。でも、面白いのは夫が体験から学ばないこと。彼が食洗機を開けたときには、自分が入れたのとはすっかり変わっているわけですよ。それを取り出したときに「合理的な入れ方」がわかるはずなんですが、彼はまた自分のやり方で入れるんです。そして、私が見逃したときにはお茶碗が欠けたりしてます。全然学んでいない(笑)。でも、他の場面ではきっと私もそういうことやっていると思うんですよ、ゴミの出し方とか。お互いに、見えないことは見えないんだと思います。なので、何かやってくれた時には必ず感謝して「ありがとう」と声に出して言うようにしています。彼とは長い付き合いですが、しょっちゅう「ありがとう」といってくれますので。
松尾 ほんとそうですよね。私も「ありがとう」はしょっちゅういいます。でも、たまに「ありがとうと言うと損する」みたいに考えている人がいて不思議です。「なぜそこでありがとうっていわないんだろう」って。
渡辺 家だとお互いそれが当たり前になっているから、そうじゃない人に会うとすごく不思議ですよね。あと、彼は私が作った料理を食べるたびに「おいしい」と必ず言ってくれます。「これは、すごくおいしい!」と繰り返すときは「また作ってほしい」のリクエストと解釈しています。ちなみに、夫は美味しくないものでも「まずい」とは決して言いません。「いまいちだね」とも言いませんね。料理を一口食べたあと手をつけないときには、「これは口に合わなかったんだな」と察知できます。
松尾 「ありがとう」と「おいしい」はお互いの関係性をよくしてくれる言葉ですよね。タダなのでどんどん使うべきだと思います。
険悪にならずにお願いするには
渡辺 食洗機の例のように、誰だって基本的に自分の興味がないことには注意を払わないんですよ。だから覚えられない。
松尾 きっと、微妙な違いがわからないんですよね。
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