事件の鍵を握る海軍特殊部隊出身のエリート軍人サントス中将とは?

【第18回】
第二次大戦中に米軍に属して戦ったフィリピン軍人には、戦後アメリカの市民権が交付された。殺された記者が空軍時代に作成に携わったそのリストの中に一人だけ不自然に若い男が含まれていた。フィデル・サントス中将ーー海軍特殊部隊・ネービーシールズに抜擢され湾岸戦争やアフガニスタン戦争で活躍した英雄だった。

究極の伝奇ロマン&暗号ミステリー!

フィリピン軍人から米国市民権を得て米軍に転籍したサントス中将とは!?

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“It was human, not gold.”
(金塊ではなく、人間だったようだ)

“Oh……”
(そうですか……)

“Only few people know the details. Wait for a few days for specifics.”
(内容を知っている人間がほとんどいない。具体的なことは今調べている)

“Thank you.”
(ありがとうございます)


ハッチスター特別捜査官からの第一報は予想外だった。

バタックでの特殊任務がバタックから人を運ぶことだったとは、俄(にわ)かには信じ難い。マルコス以外にアメリカ空軍がかかわってまでフィリピンから脱出させる人間がいたとは考えられない。

多分、ハッチスター特別捜査官が最後に言った言葉が正解なのだろうと鈴木は思っていた。

“But, I believe that is their excuse. Secret project for gold is being covered up as a humanity project. To be continued.”
(だが、多分隠れ蓑だろう。人権保護を前面に出しての金儲け。もう少し調べてみる)

アメリカとはそういう国である。
それでも、ハッチスターほど顔の利く人間でさえも辿り着けない情報となると、連邦政府内でもかなりのタブーということになる。

大統領とその側近だけが知っていたマルコスとの取引。
決して公にしてはならない最高の機密情報。

マルコスの亡命が一九八六年でイメルダの公言が一九九二年である。大統領もブッシュに代わり、マルコスも死亡してから三年が過ぎていた、

イメルダの性格を考えると改めてマルコスの弁護をすることが重要であったとは考えられない。とすれば、待遇の悪くなってきたことに腹を立てたイメルダが、密約の公表をちらつかせながらブッシュに突きつけた脅しだったのかもしれない。

どうも金塊の運搬は永遠に公開されない軍の機密である可能性が高い。
世界は怪しくて危ない公然の機密で満ちている。

M資金と天皇の戦争責任との関係も、イギリス皇太子妃の事故の真相も、あまり近づき過ぎると危なくなる話である。ケネディ暗殺、ケネディ・ジュニアの飛行機事故。アメリカも例外ではない。

それほど機密性の高いことを殺害された記者は知っていた。取材で明らかになるようなこととは思えない。やはり記者は空軍時代に何らかの情報を手に入れていたのだろう。

フィリピンからの金塊輸送が確認できないとなると、ナチスの金塊がウィーン中央墓地に埋められているとの報告書も書けない。

どうするか。
どこからアプローチするか。


行き詰まったら原点に戻れとBAUでは教えられた。ハッチは何時もそれを実践していた。
だったら、自分に今できることとはなんだろう。

(原点か……)

国家最高機密に関することを記者が知っていた。
やはり、それは、記者が空軍時代に手に入れた情報としか考えられない。

(記者の空軍時代でも調べてみるか)

鈴木はコンピュータに向かうと、軍歴データバンクにアクセスした。


当時の軍歴はまだデジタル入力ではなかったが、ファイルそのものはページごとにスキャンされ、電子ファイル化されている。

記者はそれほど重要な兵士ではなかったらしく、記者のファイルにアクセス許可を必要とする事項は何もなかった。明らかに特殊任務には就いた形跡もない。

(空振りかな……)

記者は空軍時代にも、国の最高機密に近づけるほどの仕事はしていない。
ただ、読み進めているうちにフィリピンと関係がある事項が一つだけ見つかった。

一九九〇年ブッシュ政権で法制化された第二次大戦中のフィリピン軍人へのアメリカ市民権交付リストの作成に携わっていたことである。

フィリピン人の兵士は第二次大戦中アメリカ軍の一部として戦争に参加していた。
アメリカは国を守るために命を懸ける兵士を大切にするとの公約を前面に出している国家である。アメリカ軍として戦ったフィリピン兵士は当然のようにアメリカ市民として認められるはずであった。

しかし、実現するまで四十五年の歳月を必要とした。
ブッシュ政権において初めて彼らがアメリカ市民として戦争に参加していたことが正式に認められたのである。

記者が所属していた部署は、市民権を与えられる予定になっているフィリピン兵士の確認作業のうち、空軍関係者のリスト作りに携わっていた。


最終的に市民権を与えられた兵士のリストもアクセス許可を必要としなかった。
ファイルを開いた。

四十五年も経っていて生存者が少なかったのだろうか、空軍関係者は意外に少なかった。空軍という特殊事情があったのかもしれない。

リストを眺めていてふと違和感があった。
最初は単純な記載ミスだと思った。もう一度読んでみて間違いではないことを確認した。

ひとりだけ戦後生まれの男が含まれていたのである。

フィデル・サントス。

生年月日から計算すると当時二十三歳であったことになる。
明らかにリストに含まれるのはおかしい。恐らくは何らかの事情から市民権を与える必要のあった男を入れてしまったのである。

新しい法律を作る手間は計り知れない。できることは現行法の条文の間を縫って実行してしまう。法律の抜け穴、いわゆるループホールの活用は官僚の常套手段である。それはアメリカでも例外ではない。

このフィリピン空軍兵には何らかの理由で市民権を与える必要があった。市民権の授与は大統領令を出して処理すれば簡単なことではあるが、この法律が施行されるタイミングを考えれば、このリストに入れてしまう方が手っ取り早い。

恐らくは軍上層部、もしくはホワイトハウスの上級官僚がそう判断したのだろう。

(もしかするとこの男がバタックから運ばれた人間なのか)

その考えはすぐに吹き飛んだ。空軍を動かしてまで輸送する必要のあった人間ならば、大統領令で市民権が与えられているはずである。

だがタイミングを考えるとバタックでの特殊任務との関係が否定しきれない。
何らかの関係者であったのかもしれない。

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