あの姉弟を作った“普通”の家族

江森姉弟を育んだ家庭環境—まんしゅうきつこ×江森康之 姉弟対談【前編】

抱腹絶倒のブログで大人気のマンガ家・まんしゅうきつこさんと、その実弟で雑誌のグラビアや映画、テレビのスチールなどで活躍する写真家・江森康之さんの姉弟対談が実現! 異彩を放つこの二人を育てた家庭環境とは一体どんなものだったのでしょう。そしてまんしゅうさんのマンガに描かれたお話はどこまでが真実なのか。「家族」のことを考えずにはいられない、家族愛あふれる笑いっぱなしの対談を前中後編3回に分けてお届けします。cakesのリニューアルを記念し、前編は無料公開です!

現金をくれる父とオレオレ詐欺にかかる母

まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう) 正直、この対談に全然自信が持てないんですよ。こんな姉弟の話なんて、誰が聞きたいんだろう……。

江森康之(以下、江森) 俺なんてただのカメラマンだし、姉ちゃんだって別に本を出してるわけでもないし、別に誰も知らないよね。

まんしゅう つまらなすぎてボツになったら申し訳ない……。

江森 無理におもしろくしようとして暴走すんなよ。俺たち普通の人間なんだから。

—いやいや! 何を言っているんですか。まんしゅうさんは今ネットで大人気のマンガ家・イラストレーターですし、江森さんは雑誌や映画のスチールで大活躍されているカメラマンじゃないですか。まずはそんなお二人を育んだのはどんな家庭だったのかお聞きしたいです。

まんしゅう ウチは早い話、父親不在の機能不全家族なんですよ。お父さんは何もしない人で、家にもあまりいなくて、お母さんが一家を支えていたという、そういう家です。

江森 親父はとにかく無茶苦茶な人で。埼玉の熊谷ってとこでじいちゃんから継いだ会社をやっていて。

まんしゅう 精米器の部品なんかを扱う小さな商社みたいな会社だったんですよ。私たちが小さい頃は結構裕福で、姉弟3人、全員私立の高校と大学に行かせてもらいましたから。

江森 でも、8年くらい前? ケーヨーD2みたいな大型店の影響で業績が悪化して、倒産しちゃったんですよ。そのこと親父、ギリギリまで隠してたんだよね。

まんしゅう それで家も失って……(笑)。

江森 俺らが子どものころは気前のいい親父で、酔っぱらうと「おい、金やるぞ」って。いきなり現金をくれるんですよ(笑)。まあ、見えっ張りなだけで、実際はだましだましやってたのかもしれないですね。

まんしゅう 景気が悪くなってからお父さん、徐々に元気なくなっていったよね。

江森 逆にお母さんはしっかりした人だったんですけど、ちょうど会社が倒産するくらいのとき、オレオレ詐欺にあったんです。朝の9時くらいに電話がかかってきたんですよ。出たら、「あら、あんた電話つながるじゃない。お金振り込んどいたわよ」って言ってて。

まんしゅう ふふふ(笑)。

江森 朝まで仕事してて頭ボーっとしてたから、最初は何言ってんだかよくわかんなかったんだけど、「あっ! オレオレ詐欺だ!!」って(笑)。よくよく聞いたら、何でも俺が知り合いの借金の保証人になったとかで、そいつが飛んじゃって、元本50万円+利子を返さなきゃならないと。それで助けてくれという電話だったみたい。

まんしゅう 詐欺の電話を受けたとき、お母さんお風呂上がりだったみたいで、電話口で「お母さん素っ裸よ」って言ったらしいんですよ。そしたら犯人も、「ふふふ、早く服着ろよ(笑)」って。

江森 それで親戚から借金してお金作って払ったらしいんです。「それオレオレ詐欺だよ!」って言ったら「あ、お母さん、だまされちゃった……」ってすごく悲しそうで。

まんしゅう 当時康之が映画に関わっていたから、話に信憑性があったらしいんですね。

江森 『赤目四十八瀧心中未遂』っていう映画のスチールを担当してたんです。大きな資本が入った映画というより、みんなで作り上げていこうっていう感じで、当時母もそれを知ってて。それで映画の制作費かなんかだと思ったらしくて、借金の話を信じちゃったんだろうなあ。

映画「赤目四十八滝心中未遂」―江森康之写真集
映画「赤目四十八滝心中未遂」―江森康之写真集

「まんしゅうきつこ」はサービス精神

まんしゅう 逆にお父さんはとにかく怖い人だったんですよ。とにかくいつキレ出すかわかんないし、怒ったら手がつけられないほど暴れるし。

江森 何考えてるかわかんなかったよね。俺も小学生まで敬語でしゃべってたし。例えば、家族でレストランに行くじゃないですか。そこで俺がつまらないことを言うと、カッとなってその場にある灰皿でいきなり殴りかかろうとするんですよ。俺、幼稚園児ですよ(笑)。あとおぼえているのが、お祭り行ったときのこと。夜店で何かねだるじゃないですか。そうすると突然肩車をされて全力疾走し出したりするんです。もう、わけがわからない。とにかく恐いということだけが植え付けられてきたんです。

まんしゅう ほんと、そんな感じ。

江森 大変だったのは、姉ちゃんにいじめられたふりをして親父に言いつけたことがあって。

まんしゅう ちょっとしたいざこざだったのに、康之が泣きまねしながら大げさなことを父親に言ったんですよ。

江森 そしたら親父が激怒してね、姉ちゃんを容赦なくボコボコしたの。女の子でも容赦なし。ほうき持ってきて姉ちゃんのことをずーっと掃くんですよ。部屋の隅っこに向かってガンガン掃くんです。そんなの見てたら俺、ウソ泣きだなんて言えなくなっちゃって。

まんしゅう 特に私は長女だったので、本当に厳しく育てられたんです。初めての子どもだったので、新鮮さとか、期待とかも大きかったんでしょうね。とにかく体罰も当たり前な人なので、私は結婚するかお父さんが死なない限り自由になれないと本気で思い込んでいました。でも、年子の妹や5つ下の康之には手を上げなかったよね。

江森 怖かったけど、確かに姉ちゃんのときよりはゆるかったかもね。

んしゅう 私は父親に一度も褒められたことがないんです。私、すごくプレッシャーに弱い人間なんですよ。今考えると、こうやって育てられたことで、必要以上にプレッシャーを感じやすい体質になってしまったのかなって思うんです。だからその分、自分の子どもはとことん褒めて育ててます。

江森 でもその分、姉ちゃんは俺にめちゃめちゃ厳しいよね。

まんしゅう そうね(笑)。

江森 思春期の頃って、自意識が強いじゃないですか。姉ちゃんはそれを徹底的に潰そうとしてくるんですよ。例えば、中学生くらいのときって、「今日は俺の服キマってるな」とか思う日がありますよね。そういう俺の自意識を見抜いて、「岡村靖幸ならOKだけど、お前だと中途半端で気持ち悪いから止めろ」とか、ホントにイヤそうな顔で言うの。もうこっちは全然楽しくない。

まんしゅう いや、良かれと思って言ってるんですよ(笑)。まあ、確かによくケンカもしてましたね。口ゲンカじゃなくて、取っ組み合いのケンカ。私、右手の小指が曲がってるんですけど、二十歳のときに康之とケンカをしてケガしてからずっと曲がったまま(笑)。

江森 ていうか、今日もここ来る前にケンカしてたんですよ。それで姉ちゃん、「もう対談に行かない!」とか怒っちゃって。

まんしゅう 康之がしつこいからでしょ。だって、何度も「ホントはモテたいんだろ?」とか聞いてくるんですよ。「いや、ないから」って否定しても、「お前はウソをついている。ホントのことを言ってない」って聞かなくて。

江森 んー、なんか、“弱い”気がするんですよ……化粧で顔を隠すのって。だって、顔出さないくせにこんなしっかり化粧してるんですよ。おかしいでしょう。「そんな厚化粧して、唇はみ出るくらい口紅ぬって。モテたくないならそんなのぬるんじゃねえよ。だったら坊主にしろよ!」って言ってやったんですよ。

まんしゅう めちゃくちゃですよね(笑)。

江森 この人ね、「まんしゅうきつこ」なんてペンネームにしてるから勘違いされるかもしれないんですけど、ホントは下ネタなんか言わないし、下品でも何でもない人間なんですよ。

まんしゅう (笑)。

江森 それこそ身内が傷つけられそうになったら、刺し違えてでも戦おうとしてくれると思う。それくらい優しすぎて、サービス精神が過剰すぎて、それでよかれと思って余計なことをやっちゃうんです。だから今日もサービス精神で暴走しないかハラハラしてるんです。そんな姉ちゃんだから、化粧とかでごまかそうとしないで、強くいて欲しいし、堂々としてて欲しいんですよ。

まんしゅう だからって「坊主にしろ」はないでしょ(笑)。

「アリエッティ」のような両親

まんしゅう 康之は自分と身内に対して異常に厳しい子なんですよ。だから私にもめちゃくちゃなこと言うし、自分でもいきなり断食とか始めちゃう。

江森 そういうとこは親父の血なのかな。まあ、正直者ではあると思うんですよ。自分の理想があって、そこに対して手を抜くと自分に跳ね返ってくる、と思ってるんですよね。逆に、今の姉ちゃんはほんとに優しいですよ。それだけに心配なんだよね。

まんしゅう 心配?

江森 ブログとかさ、何か変な宿題を抱えちゃってるなという感じがするんですよ。最初は本人が楽しんで書いてるなって感じがしてよかったんだけど、ネットのニュースとかで取り上げられてちょっと話題になったり、ブログがきっかけで仕事がくるようになったりして、変なプレッシャーを感じてるように思うんだよね。

まんしゅう 楽しく書いていたものが、書きづらくなってきたというのはあるかも……。

江森 そんなのね、たいしたことないんですよ。ちょっと取り上げたくらいで。たいしたことないのにプレッシャー感じちゃって。

まんしゅう 異様にプレッシャーに弱いんです(笑)。

江森 優しいから読んでくれてる人のことも考えすぎてて、過剰なサービス精神を出そうとして、それが重荷になっちゃってるんですよ。そこら辺歩いてる人に聞いたって姉ちゃんのことなんて誰も知らねえんだからさ、楽しんで書きゃいいんだよ。

まんしゅう なんか私のことばっかり言われてますけど、この子だってほんと優しいんですよ。この話、言っていいのかな……。

江森 なに? なんだって言っていいよ。

まんしゅう こないだいきなり電話かかってきて、「お母さんに25万振り込んだぜ」とか言ってきたんです。この子、自分で稼いだお金を結構親にあげてるんですよ。私は貯金しろって言っているのに。

江森 ああ。こないだ家で写真を整理してたら、両親が写ってる昔の写真が出てきたんですよ。親父が向こうで野グソしてて、お母さんが手前でポーチからティッシュを探してて。

まんしゅう お父さん、ウンコ我慢できないからね(笑)。

江森 その写真を見てたらさ、長年のコンビネーションというか、夫婦ってこれだよなあとか思って。『借りぐらしのアリエッティ』っていう映画ありましたよね。ああいう葉っぱの裏で小人たちが温かく生きてるみたいな感じがしちゃって、ブワーって泣けてきて。それでたまらなくなって、金をつかんで送ったんだよね。

まんしゅう 私にそこまでの家族愛はないなあ。そういう意味では、私は典型的な長女で、康之は家族に愛されて育った典型的な末っ子だよね。私は親にかわいがってもらった記憶がない(笑)。

江森 二番目の姉ちゃんもまた違う人間だよね。

まんしゅう 何というか、自己顕示欲がまったくない人だよね。人づき合いもあまりしないし、SNSとかも一切やらないでしょう。私がブログに家族のことを書いたりするのも本当にイヤみたい。康之と対談するって電話で報告したときも、「頼むからこれ以上生き恥をさらすな」って……。

江森 「私も江森康之の姉なんだから、まんしゅうきつこと間違われたらどうすんのよ!」って怒られてたもんね(笑)。

(中編は7月16日更新の予定)

ケイクス

この連載について

あの姉弟を作った“普通”の家族

江森康之 /まんしゅうきつこ /cakes編集部

抱腹絶倒のブログで大人気のマンガ家・まんしゅうきつこさんと、その実弟で雑誌のグラビアや映画、テレビのスチールなどで活躍する写真家・江森康之さんの姉弟対談が実現! 異彩を放つこの二人を育てた家庭環境とは一体どんなものだったのでしょう。そ...もっと読む

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コメント

sakai_panda いい家族だ。 約1年前 replyretweetfavorite

lineswe03 きつこさんと自分の境遇を重ねて泣いてしまう今日の不安定さ 約1年前 replyretweetfavorite

AceTukumo まんしゅうきつこ先生の姉弟対談が面白いwww https://t.co/LYoyUUEhpd 1年以上前 replyretweetfavorite