自分をレアな存在として演出
──2000年に入るぐらいの頃から、みんな携帯電話を持ち始めるじゃないですか。そのぐらいの時って、携帯電話を持とうと思ったりしなかったんですか?
山口 思わなかったね。ホントにみんな持ってたのかな? オレが興味ないから視界に入ってなかっただけ? あと、ホントに忙しかったからケータイなんて持ったらバンバン電話かかってきちゃうじゃん。それがイヤだから持たなかったっていうのはあるんだよ。 フリーになりたての頃は、一応緊急のためにってことで、名刺に家の電話番号も載せてたんだけど、そしたら夜中でもバンバン電話がかかってくるようになっちゃってさ。弟が死にそうな時にもかかってきたりしたから、これは家の番号載せたらイカンな、って。事務所を一歩でも出ちゃった時は連絡取れないぐらいがちょうどいいのよ。 あと、漫画家の先生とかも連絡つかないのが当たり前っていうか、それだけで大物感が出るじゃん。自分をレアな存在として演出するんだよ(笑)。
──今それをやったらすぐ干されるでしょうけどね(笑)。
山口 だからオレもどんどん仕事がなくなっていったんだよ(笑)。90年代ぐらいからレアグルーヴって言葉が流行りだして、レアなほどイイっていうのがあったから自分の価値を高めるためにケータイは持たなかったな。
──誰にも真似できない戦略ですね。
山口 今思い出したけど、よく「オレはお店で言ったら一見さんお断りの店だから」とか言ってたんだよ。「そんなこと言ってたら仕事なくなるぞ」とか言われてたんだけど、ホントになくなっちゃったのよ(笑)。
──敷居高くしちゃったら誰も入ってこなくなっちゃったんですね!
山口 しょうがねぇよな。ギャラも高かったし、銀座の寿司屋みたいな商売しすぎたよ。あと、漫画家の先生のご指名っていうのもけっこうあって、勘違いしてたんだろうな。
──山口さんは水木しげる、水島新司、楳図かずお……名だたる大御所漫画家の単行本もデザインしてるじゃないですか。子供の頃から知ってる人との仕事ってどうでした?
山口 なんとも思わなかったな〜。オレ、そんなに漫画が好きじゃなかったからさ。
──あ、そうでしたね(笑)。
山口 中学生ぐらいの時とか、周りの漫画が好きな奴らを見て「バカじゃねーか?」って思ってたもん。で、高校生ぐらいになると少女漫画を読んでたんだよ。大島弓子とか倉多江美、萩尾望都とかをね。なんでかっていうと、当時全盛だったスポコン漫画とかホントに無理でさ〜。でも、それを熊田さんに言ったら、「お前、感性いいよ。橋本治も高橋源一郎もみんな少女漫画を読んでたんだからよ」って言われたな。
デザインに何の思い入れもない
──今までの仕事で思い入れがあるものってあります?
山口 ねぇな(笑)。
──え! 一冊もないんですか? 例えば、ジョージ秋山先生の『捨てがたき人々』って山口さんが装丁をやってるじゃないですか。あれって映画になったんですけど、映画版のポスターは完全に山口さんのデザインを踏襲してますよ。
山口 ほんとに? あれはジョージ先生に褒められたんだよ。ジョージ先生って足に異常なこだわりがあるじゃない。だから顔を出さずに、足だけ表一にくるようにやったんだよ。
──表一というのは出版用語で、一般的に表紙のことですね。
山口 最初のラフではピンとこなかったみたいだけど、本になったものを見たら「普通の奴は顔を前に持ってくるけど、こいつは分かってんじゃねぇか」って。 ホントに思い入れないんだよなぁ。のちに事務所をたたむ時も、ほとんど人にあげたり捨てたりしちゃったし。でも、どれも手を抜いたりもしなかったし、恥ずかしいけど必死にやってたよ。必死になってあれかよっていうのもあるけどよ(笑)。
グッチーが手がけた『捨てがたき人々』の表紙デザイン
オレは正真正銘フルコンタクトの極真童貞!!
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