会社を使い倒す」ことがあたりまえになる時代

広告会社でモノづくりをするという異色のプロジェクトを実現した博報堂・小野直紀さんの著書『会社を使い倒せ!』。発売を記念し、紀伊國屋書店大手町ビル店さんで『どこでも誰とでも働ける』などの著書で知られるIT批評家の尾原和啓さんとのトークイベントが行われました。互いに共感する部分の多いお二人が語る、これからの時代の働き方とは? cakesにて公開中の本編とあわせてどうぞ!(司会:ブックライター 上阪徹)

『カメラを止めるな!』を見てタイトルを決めた

—『会社を使い倒せ!』という、とても衝撃的なタイトルの本を会社員の方が出されたわけですけど、まずは小野さん、周りからどんな反応があったか、会社からどんな反応があったか、これをお聞きしていいですか。

小野直紀(以下、小野) 僕はコピーライターでもありますが、実は『会社を使い倒せ!』という本を出すと先輩コピーライターに話した時、このままでは出せないだろうね、『会社を活かして自由に働く』みたいな、そういうタイトルにしたほうがいいかもね、みたいなことを言われたんです。
さらに言うと、実は最初は『会社を使い倒す』っていうタイトルだったんです。それを途中で映画『カメラを止めるな!』を見たあとに、『会社を使い倒せ!』に変えまして(笑)。
あれ、『カメラを止めるな!』っていうのは、みんなにも言ってるんだけど、自分に言ってるんですよね。カメラを止めるな、前に進め、いいもの作れ、と。
だから僕の『会社を使い倒せ!』もみなさんに言ってるとか、そういうえらそうなものではなくて、自分に言い聞かせてる。そういう思いも込めて、より煽情的な、『会社を使い倒せ!』というタイトルにあえてしたという経緯があります。

尾原和啓(以下、尾原) 僕、めっちゃいいと思いますよ、これ。そもそも会社から見ても、会社を使い倒してもらわないといけないんですよ。20年後、30年後に今のかたちで儲けられつづける会社なんてないんです。誰かが会社を使い倒して、次の会社のかたちを開拓しなきゃいけない。博報堂の中で、本来的には戦略的な新規事業立ち上げを、小野さんが勝手にやってくれている。こんないい話はないですよ(笑)。


「就職」じゃなくて「就社」の人が多い

—ちなみに尾原さんは、今は14個目の職になるわけですけど、会社を使い倒してるっていう意識はあったんですか?

尾原 使い倒してるというか、僕の場合は正確には、どこの会社に行っても、尾原みたいなのは一人いてもいいよね、という言い方をされる立ち位置でした。新しい新規事業の立ち上げだったり、会社自体が新しい事業をやらなきゃいけない時に、事業提携をしたり、パートナーをしたり。これって、外に対して電波が立ってるということです。
一方で、変な話なんですけど、会社に対しては愛があるんです。「うちの会社こんなにいいんですよ」って外に言えないとパートナーシップってできないんですよね。

尾原和啓さん。バリ島のご自宅からリモートロボでのご登壇

小野 僕にとっての尾原さんの印象は、あちこち行って、行った先で行った先で成果を出して、その成果全部まとめて尾原さんの中で蓄積されて、最終的に一人でなんでもできちゃう、みたいな人なんです。もちろん、その会社にもコミットするんだけど、コミットした内容そのまま自分に生かしていく。どれ一つとして無駄にしてないみたいな生き方が、すごい僕はいいなと思って。僕は会社を変わってないんですけど、尾原さんとそこの点に関しては同じ気持ちでいます。

尾原 日本って、「就職」するって言ってるけど、現実的には会社に就いちゃってる「就社」の人が多い。でも本当は、自分自身でしかできない「職」というものに就くわけで、職について成果を出していれば、社内だろうが、社外だろうが、いいんですよね。
もっと言うと、世の中ってどんどんどんどん変化が激しくなってるから、本当は「就職」じゃなくて、プロジェクトに就く「就プロジェクト」みたいなふうになってきてる。そういう意味で、小野さんは同じ会社にいるんだけれども、すごいバリエーションのプロジェクトをずっとやられてますよね。


そっちのポジションに行ったほうが得

—やっぱり会社で働くということそのもの、概念がもう変わってきてるってことでしょうか。

尾原 わかりやすく言うと、結婚と恋愛の概念が、ここ50年ぐらいで変わってきたのと同じようなことだと思います。昔は結婚するかしないかってゼロかイチかだったじゃないですか。でも今は同棲って関係もあるし、恋人って関係もあって、0.5、0.3の関係っていっぱいある。それも会社と個人の関係も一緒で、例えば僕なんか、昔いた会社全部、いまだに自分の会社って言いますから(笑)。

小野 僕は実は、やってることが人と変わってるとあんまり思ってなくて。会社のなかで自由に働く人って、実はどの会社でもいるんです。この本を書いてみて、結構いろんなメッセージをもらったんですね。Facebookなり、つながってない人からもTwitterとかで。「私もそうしてます」「俺もそうしてます」という声がすごい多かった。

『会社を使い倒せ!』を刊行した小野直紀さん

世の中には、もうすでにそういう働き方をしている人ってごまんといるんだろうなと思うんです。だからそもそも僕がすごい新しいことやってるとはまったく思ってなかったんですが、それがある種、証明されたというか、そうやってないほうがおかしいぐらいになってきてもいいんじゃないかと僕は思ってます。
ただ、会社員の80%ぐらいはちゃんと働いていてほしいな、そうじゃないと僕は成立しないというのも、半面で思ってる(笑)。全員が全員、会社を使い倒すような働き方をすると、たぶん会社はなかなかうまくいかない。
博報堂は大きい会社だし、長い歴史がある会社ですが、一定量、そういう変な働き方してる人が常にいるんですね。僕はそっちのポジションに行った方が得だなって思ったんです。やってる人が何パーセントかいるんだから。特に大企業って、犯罪とか犯さないかぎり、横領とかしないかぎりはクビにならないところでもあるので。


保守的な人が多いほど、逆に振る人が必要になる

尾原 かつて僕が働いていた楽天の中にも、小野さんみたいな人が一人いるんですよ。楽天大学という店舗さんになにがしかを学んでいく学校がありまして、そこの学長の仲山(進也)さん〔※〕。彼が言ってるんですけど、やっぱり日々の仕事って今を守らなきゃいけないから、どうしても保守的になる。そうすると、小野さんみたいな人って、数が少なくなってきちゃうんですよ。
それを仲山さんは「テコの原理」って言っていて、保守的な人間が多ければ多いほど、外に向かう人間っていうのは遠くに行かないとバランスがとれないと。楽天の場合、800人ぐらいの店舗さんの売り上げをしっかり守る方がいらっしゃるから、売上が成り立っている。一方の外に向かう人間は仲山さん一人しかいないんで、だから俺は800倍遠くに行くんだって言ってて。だから小野さんの場合は……博報堂って今何人でしたっけ?

小野 3000人ですね。

尾原 だから3000倍遠くに行かなきゃいけない(笑)。

—ちなみにその仲山さんみたいに、あるいは小野さんみたいになるコツはなんかあるんですかね?

尾原 いや、むしろこれ小野さんに聞いてみたいですよね(笑)。

※仲山進也さん……楽天の正社員でありながら、兼業自由、勤怠自由、仕事内容自由を認められた唯一のフェロー風社員。2000年に楽天市場出店者が互いに学び合える場として楽天大学を設立し、横浜F・マリノスとプロ契約をするなど、「自由すぎるサラリーマン」として知られる。著書に『組織にいながら、自由に働く。』など。


精神は会社の外に出てる

小野 僕も最初は会社に所属してたんです。でも今は所属してるって意識はそんなにない。きっかけとしては一回辞めようと思ったことだと思います。YOY(ヨイ)っていう個人の活動で賞をとったりして、その道を行くという選択肢が自分の中で濃くなった時に、でも待てよ、と思ったんです。生計立つか立たないかは気にしなかったので、辞めるって行為自体は簡単だなって思って。それで、辞めないことを選択することで、面白いことが起こるんじゃないか、と。

そうなった瞬間、僕はもう会社から、精神としては外に出てるんです。その感じはすごい持っていますね。だから客観的に自分のことを見てるし、会社のことも見てる。自分はこういうことがやりたい、会社はこういうことをやろうとしている、じゃあそれを擦り合わせたらここらへんかな、とか。でも、それ自体は僕一人ではできない、会社があるからできることなんですよ。そして、会社も、僕がいなかったらできないわけです。
その時に、会社って「法人」っていいますけど、博報堂も「人」ととらえて、そもそも人の集まりだと思うんで、僕がやりたいことを博報堂というパートナーと一緒にやる、ぐらいの気持ちになれた。そこはもう、そういう意識をみんな持っちゃえばいいのに、と思いますね。

尾原 僕ね、小野さんが電通じゃなくて博報堂ってことにすごく愛があると思ってて。僕、小野さんがつくるものってすごい博報堂っぽいと思うんですよ。

小野 おおー。

尾原 博報堂の中長期ビジョンが本の中でも書かれていましたけど、「生活者と一緒に未来を作る(Inventing the future with sei-katsu-sha)」と定義されたじゃないですか。それ一番やってるの小野さんですよね。


今いる会社で学ぶことが、大きな武器になる

尾原 僕の家って小野さんが作ったものがいっぱいあって。例えば、小野さんがデザインした「Lyric Speaker」(リリック・スピーカー)。歌詞が浮かび上がるように出てくるスピーカーなんですけど、これなんてまさにそうで、一台あるだけで娘だったり祖父が来るとそれで演歌を流したりだとか。実は兄にもプレゼントして、兄の診療所の受付にはそれが置いてあるんですね。診療所の受付って音楽そんなに大きい音で流せないんですけど、誰もが知ってる曲の歌詞が静かに流れてるから、なんかちょっと落ち着くんです。新しい技術使ってるんだけど、ぬくもりがあるみたいな。まさに「Inventing the future with sei-katsu-sha」ですよね。
逆に聞きたかったんですけど、小野さんって一見するとクリエイティブなことっていう個人に依拠したことをやっているようで、やっぱり博報堂だからできたことって多かったと思うんです。

小野 その観点は、面白いですね。たしかに自分の価値ってなんなんだっていう時に、自分が所属している会社で得るものが相当大きいんだな、というのは僕も今思っていて。博報堂のことは意識して作ってるとはいえ、博報堂っぽいと、はっきり言われたの実は初めてだったんで、あ、なるほどなぁと思いました。
でも、たぶんここで、僕が電通っぽいでも広告会社っぽいでもなく、博報堂っぽいって言われたのが、ひとつ大事なことなのかなと思いました。それを持っていけば、僕は電通にも転職できる(笑)、広告業界の外にも行ける、ということだから。博報堂で、ある一つの会社の特異性というものを僕は身につけたっていうことだと思います。
実は所属している会社で学ぼうとすることが、しっかりと武器になるんだな、と今お話うかがって思いました。

(司会・構成 上阪徹/撮影 宇賀神善之)

※次回「転職して年収が上がる人とは?」は2月26日(火)更新予定です。


=刊行記念イベント開催決定!=

□『会社を使い倒せ!』刊行記念イベント
小野直紀 × 三浦崇宏 × 上阪徹
「会社を使い倒して自由に働く」

日時:2019年3月2日(土)14:00~16:00
会場:有隣堂 アトレ恵比寿店(東京都渋谷区恵比寿南1-5-5 アトレ恵比寿5F)
※詳細・ご予約はコチラからどうぞ。

みなさまのご参加、お待ちしております!


全国書店にて好評発売中! 注目の博報堂クリエイティブディレクターによる、会社を辞めずに「やりたい」を仕事にする方法!

会社を使い倒せ! (ShoPro Books)

小野 直紀
小学館集英社プロダクション
2018-12-20

この連載について

これからの「会社で働く」ということ—小野直紀×尾原和啓対談

小野直紀 /尾原和啓

広告会社でモノづくりをするという異色のプロジェクトを実現した博報堂の小野直紀さんの著書『会社を使い倒せ!』。発売を記念し、紀伊國屋書店大手町ビル店さんにて『どこでも誰とでも働ける』などの著書で知られるIT批評家の尾原和啓さんとのトーク...もっと読む

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コメント

leftwing_ki 精神は会社の外に出てる→ 7ヶ月前 replyretweetfavorite

kotya0124 #スマートニュース 僕たちは就職を目指すべきで、就社になってはいけない。この話を学生のときに聞いておきたかった。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

814_kimura86 わかるなー会社を利用する >もっと言うと、世の中ってどんどんどんどん変化が激しくなってるから、本当は「就職」じゃなくて、プロジェクトに就く「就プロジェクト」みたいなふうになってきてる。 https://t.co/JRX3jzRtwG 7ヶ月前 replyretweetfavorite

kazobara 博報堂から初めてITおもちゃを発売、ミラノサローネに出展など数々のイノベーションを行っている小野さんの著書「会社を使い倒せ!」を記念した鼎談イベントです。 今いる会社で学ぶことが、大きな武器... #NewsPicks https://t.co/54tgz4CqfM 7ヶ月前 replyretweetfavorite