飛行機は一度ドウンと沈んだように屈伸したかと思うと、次の瞬間にはふわっと浮き上がったのを感じた。
窓から見える景色は、一瞬で地平が斜めに変わり、機上の人になったことを再確認させる。
何度乗っても飛行機が空に向かって飛び立つ瞬間は、緊張と弛緩の感情が交互に押し寄せて、慣れなかった。
飛行機のエンジンが乗客席にも伝わるほど爆音を立てて、ぐんぐん上へ上へと力強く私たちを押し上げている。
アキが傍目で見てもわかるほどに震えているのがおかしい。
ユウカは落ち着いて新聞を見ていた。とはいえ、内容は頭に入ってこない。
飛行機に乗る時に新聞か雑誌を選ぶのだが、アキの手前、教養をアピールしようと新聞を選んだことを後悔した。
書いてあることが難しすぎるのだ。
どこかで法律ができた、どこかで条約が結ばれた、どこかで……いまのユウカにはほとんど関係のないことばかりだ。
(これなら、飛行機乗る前にゴシップ雑誌でも買ってくるんだった)
新聞を読むふりにも飽きて、ユウカは新聞を脇に置いて、外を眺めた。
飛行機は雲の上に出て、目の前には遥かな雲海が広がっている。
これから始まる旅の予感に小さな胸が高鳴ってくる。
雲海の切れ目に陸地が見えた。
おそらく瀬戸内海だろう。あのいくつもある小島の中に小豆島があるんだろうか。
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