巨大地震で水途絶、給水車10万人に1台の現実

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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インフラは連鎖的に麻痺

 現代社会の決定的な弱さは、電気や水道などのインフラへの依存にもあります。
 かつての日本社会はろうそくや灯明、かまど、井戸や湧き水、くみ取り便所での生活で、畑もあり、各家庭の自立性や自給自足の度合いが高い社会でした。前回の南海トラフ地震である昭和の東南海、南海地震が襲ったのは戦中、戦後の貧しい時期でした。そのころインフラは今ほど整備されていなかったおかげで、被害の広がりは限定的でした。
 ところが、現代は水や電気・ガス、燃料、道路や鉄道、そしてインターネットや携帯電話などの通信に過度に依存しています。しかも、それらは複雑に関係し合っています。一つのインフラがやられると、被害は他のインフラにも連鎖的に広がり、生死の問題や社会の破綻に直結してしまいます。
 詳しくは後半の章でも述べますが、水は電気や燃料がないと送れず、電気は水と燃料がないとつくれません。燃料をつくるには水と電気が必要。そして、いずれも道路が途切れると動かせない。製造業も工業用水や電気・燃料の供給が途絶すると、長期の生産停止に追い込まれます。
 生きるために何より必要なのは水です。しかし、湧水や井戸水などの身近な水を利用していた時代とは違い、今は大河川の水をきれいにして送るために、浄水施設や配水池への送水、集合住宅での水のポンプアップなどに電気が欠かせなくなっています。このため、停電時には非常用ディーゼル発電機などが必要で、燃料を確保しておかなければなりません。それがなければ水は供給されず、災害時に必要な消火活動や医療活動にも影響します。災害拠点病院で電気がなくなり、水が不足したら、どんな状況になるでしょうか。
 断水したときに頼りになるのが給水車ですが、その数は人口10万人に1台程度です。小さな災害では全国の給水車が駆け付けてくれますが、広域の災害では全く不足します。給水車が不足すると、車に給水タンクなどを乗せて配給することになるでしょう。その場合にも車両と運転手の確保が必要になりますし、道路が通れ燃料が確保できることが前提になります。

 多くの物資は道路をトラックで運んでいます。道路には、高速道路、国道、都道府県道、市町村道、農道、私道などがあって、それぞれ管理している人が異なります。いざというときにどの道路を先に切り開き、復旧するかをあらかじめ定めておかないと、建設業者の取り合いになってしまいます。社会の早期回復のため、何が大事かを協議した上で、優先順位に応じた復旧が必要です。
 また、たとえ道路が無傷でも、トラック事業者が事業継続できていなければ物流がストップしてしまいます。トラック駐車場の浸水危険度はどうか、トラック運転手や燃料の確保はできるか、物流拠点の対策は十分か、情報システムや通信の確保はできているかなど、心配なことはいろいろとあります。

電気、ガスの途絶も長期化

 電気の問題の深刻さは、福島第一原発の事故や、火力発電の停止でいやというほど思い知らされ、計画停電によって社会が大きく混乱しました。今では多くの原発が停止しています。
 代わりにフル稼働している火力発電所は、原発ほど、地震に強くつくっているわけではありません。発電には膨大な燃料と冷却水、広大な敷地が必要です。そのため火力発電所は沿岸部の埋め立て地につくられることが多く、津波や高潮、揺れや液状化などの被害を受けやすいのです。また、原子力発電と違って特別な耐震性も要求されていません。

 津波が発生すれば、タンカーが通る航路ががれきなどでふさがれてしまうでしょう。タンカーが接岸する岸壁が液状化による側方流動(地盤の横移動)で損壊すれば、燃料の受け入れが困難になります。障害物を取り除いて、航路を速やかに切り開き、護岸を復旧しないと、たとえ発電所が無傷でも燃料不足に陥り、発電が再開できません。また、送電鉄塔、変電所、電柱などの配電施設、顧客の受電設備などがすべて生きていて初めて電気を使うことができます。
 電力の自由化が進んでいますが、社会の根幹をなすものについてまで自由化してしまって大丈夫でしょうか。社会の生命線とも言える発電所や送電網の安全性は、何が何でも守るよう社会でコスト負担する必要があると思います。

 タンカーなどで輸入される液化天然ガス(LNG)のうち、3分の2は火力発電所の燃料に、3分の1は都市ガスに利用されます。都市ガスのうち、約7割は工場などの産業用、残り3割程度が家庭用です。プロパンガスに比べて、都市ガスは導管が途絶すると多くの人たちが影響を受けます。地中に埋設されていることもあり、一度被災すると復旧には時間がかかります。
 阪神・淡路大震災では都市ガスの復旧に3カ月を要したことから、ガス業界はガスの供給エリアを小ブロック化し、それぞれのブロックに地震計を設置。強い揺れを観測した場合には小ブロックごとに供給を停止し、被災エリアを最小化するという作戦を立てました。その結果、大手ガス会社は膨大な地震観測網と高度な災害情報システムを備えた最新の災害対応体制を整えることになりました。しかし、巨大地震ではすべてが止まることも予想され、復旧には時間がかかるだろうと思います。
 ガス事業者は東京ガスや大阪ガス、東邦ガスなど一部を除くと小規模の事業者が多いのが現状です。そのため、災害時には全国のガス事業者が被災地に助けに行く「オールジャパン」の助け合い体制が整っています。しかし、超広域の災害では、助け合いにも限界があります。とはいえ、行政がコストカットを進める水道事業に比べ、ガスは民間なので安全対策はまだマシだと言えます。ただ、電気に続いて大手ガス会社も自由化で過度な競争に巻き込まれてしまいました。助け合いの精神が残り続けるのか心配です。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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