3 ゴーイング・ゼロ
意識を取り戻すと、私は大きな樹の下の、草っ原に横たわっていた。
そこで長い時間、動けずにいた。視界には木々とその隙間から零れる夜空が広がっている。遠くで車の喧騒が聞こえた。
何度か、痛いほど目を閉じた。手の先が忰み、恐ろしく寒い。私はゆっくりと強張った身体を起こした。
見覚えのある公園だった。嘘のように静まり返っていた。
いったい何があったのか。時間をかけて、頭の中を動かしてみる。
私は自分の部屋で睡眠薬を飲み、死を待つばかりだった。それがどうだろう。いつのまにか屋外で寝ていた。
肩や尻についた草を震える手で払う。そろそろと立ち上がった。近くの水飲み場で蛇口を捻る。ミネラルウォーターではなく、水道水を飲むのは久し振りだ。ひどく喉が渇いていた。
口のまわりを拭い、あたりを見渡す。街灯があちこちに点在していたが、不自然なほど人が少ない。いまは何時なのか。ほのかな明かりに照らされた時計塔に目を細める。十二時二十分を指していた。
シャツやジーンズのポケットに手をやる。財布やスマフォといった所持品はなかった。 石畳の階段を下りる。すぐ目の前を、ガタンゴトンと電車が通っていった。
それでわかった。ここは宮下公園ではないか。
自分がいるのは渋谷なのか? 新高円寺のボロアパートにいたはずなのに?
軽い目眩がした。私の頭の回りを星が光っていた。
重たい足取りで、とりあえず駅のほうへ向かった。普段よく通る、マルイ正面の大通りを選んだ。
ぼやけた頭でも、「なんかヘンだ」とすぐに気付いた。
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