部活式で文章はある程度書けるようになる
文章はどうやって書けるようになるのですか?と講演会に行くと、必ずと言っていいほど聞かれます。今回は影響を受けた池波正太郎さんの話をしたいと思います。
自分が文章をうまく書けるなどと思っているわけではないが、ほぼ毎日情報発信をしてきて、少しはマシになってきたかなとは思う。開業前には開業前ブログをやっていて、その前には料理ブログを運営していた。そういえば、DJをやっていた時にはまだブログは存在していなかったけど、イベントサイトを運営していて、掲示板を管理してコラムや音楽のレビューを毎週書いていた。
あぁ、思い出せば出すほど書いている。小さなフリーペーパーの音楽誌に毎月連載もしていたのだった。もう20年以上、継続的に毎日何かを発信してきたことになる。結局、これは部活式だ。継続的に積み重ねて訓練を積むことによって、ある一定のレベルには誰でも到達する。継続は力なりという言葉は嫌いじゃない。
文章を書くにあたって気をつけていることがいくつかある。それは全て池波正太郎さんに学んだと言っても過言ではない。ただ池波さんを読み始めたのは割と最近のことだ。
子どもの頃から本が好きで様々なジャンルの本を読んできた。と言ってもあまり沢山の量を読んではいない。一つの本が気にいると繰り返し読んでしまう習性があり、本屋に行くと本が好きというのを憚れるくらい読んでいる量が少ない。
だけど純文学は好きでよく読んだ。一番本を読んでいた中高生の頃はかなり卑屈になっていて、厚ければ厚いほど良い本だったし、わかりにくければわかりにくいほど良い本だと思っていた。だから、現代の日本作家の本は殆ど読まなかった。現代語がひどく簡単で陳腐に見えていたのだった。
きっかけは長野移住
読書の流れがガラッと変わったのは、長野移住だった。引っ越してコンピューターのシステム会社に初めての就職をした。WEBデザイナーとして入ったのだが、社長と飲み会で話している時に「真田太平記は読んだことある?」と聞かれたのだった。ないと言うと「長野に来て真田を読んでないはダメだから、貸してあげるよ。」と池波正太郎さんの真田太平記全12巻をすぐに貸してくださった。
ペラペラとめくると行間が大きく開いていてボリュームも少なく、簡単に読めそうだと思った。吉川英治さんの三国志を中学生の時にハマって何度も読んだことを思い出し、吉川さんの方がすごかった(ボリュームと難しさが)から、こっちは簡単ですぐ読んで返せるなと感じたのである。
だが、読み始めた時の衝撃が今でも忘れられない。感動した。今にも目の前に鮮やかに江戸時代の情景が現れてくるような気持ちがしてくる。こんなに簡単な言葉で、こんな風に描ける人がいたのかと衝撃を受けた。読んでいるだけで冬のとても厳しい寒さを感じ、春が待ち遠しくなった。春がくれば淡い萌芽の香りが漂いはじめ、季節をこんなにも感じさせることができる文章に驚いた。
兎に角、登場人物の心象から風景まで、単純な言葉の組み合わせで丁寧に描かれていて、それでいて文節も短くて圧倒的に読みやすい。これまで読んだことのないような爽快感もあった。
池波さんは美食家でも知られているが、食卓の風景を読んでヨダレを垂らしてしまったのは、後にも先にも池波さんだけだ。あれは確か剣客商売の1巻の始まりだったと記憶している。主人公の息子の大治郎が根深汁を作って食べている。根深汁とは具材がネギのみの味噌汁のことを言うそうだが、そういった説明をしながらお金のないこと、簡素な生活をしながらも充実した日々を過ごしていること、一瞬で大治郎の人柄そのものがわかるようなシーンだった。根深汁がそれはそれはおいしそうで、ジュルっとよだれが出てきてしまったのをよく覚えている。
古本でひたすら著作を集める
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