A国製の1万円のコートを、あえて国境で2千円高くする意味は?

大学生協、図書館でもロングセラーとなっている『高校チュータイ外交官のイチからわかる!国際情勢』から特別連載中の今回のテーマ「7ーー関税と産業のはなし~戦争を引き起こした関税~」を前編/後編の2回に分けてご紹介します。そもそも、関税って何のためにあるのか、一読で丸わかりです!

7 関税と産業 のはなし── 戦争を引き起こした関税

国を開くのか、閉じるのか

 ここから2章にわたって、関税と産業、自由貿易というテーマの話をします。

 最近、ニュースで「貿易戦争」という言葉を耳にすることが多くなりました。ある国が、外国の製品が自分の国に入ってくる際の「関税」を高くすることによって、外国の製品が入ってくることをブロックしたとします。それに反発した相手の国が「じゃあこっちだって仕返ししてやる!」として、自分の国の関税も上げてしまいます。このような攻撃と報復が、あたかも貿易上の戦争であるようなことから、貿易戦争と呼ばれます。

 最近では、アメリカが外国から入ってくる鉄鋼やアルミに高い関税をかけて、それに多くの国が反対していますが、これってそもそもどういったことなのでしょう。

 関税や貿易の話は、少し細かくて、難しい部分もあるかもしれませんが、これからの日本のかたちを描くうえで、とっても重要です。わたしたちがこれからの日本をどうしていきたいのか、という国のあり方についても一緒に考えてみましょう。

モノが国境を通るときにかかる「お金」

 私たち人間が国境を越えて外国に入る時に必要なものといえば? パスポートですね。では、自動車やテレビなどのモノが国境を越える時にはどうでしょう?  これらは「モノ」なので、もちろんパスポートはいりません。そのかわり、国境を通過するときに、お金を取られてしまうことがあります。

 海外からモノを持ち込む場合、輸入する国が、「関税」という税金をかける場合があります。輸入する製品の代金の数パーセント、といった感じで、商品の価値に対して、一定の割合の関税が課せられます。

 たとえば、A国が、コットンでできたコートを、1万円で販売する予定で、B国に輸出するとしましょう。B国の国境に着いた時点で、そのコートの価値は1万円です。

 B国は、コットン製のコートに一律20%の関税をかけているとしましょう。そうすると、B国の国境で、1万円の20%、2千円を支払わなくてはなりません。そのコートは1万円で販売するつもりで、A国内で製造されました。でも、B国の国境を越えるために2千円かかるのであれば、このコートは1万2千円で売らなくては、赤字になってしまいますね。だから、このコートは、もともと1万円で販売する予定だったのに、B国のデパートに並ぶときには、1万2千円になるのです。

 ここで、同じようなデザインのコートをB国内で作っているとしましょう。価格は1万円で同じです。B国内で作っていて、B国内で売るわけですから、国境を越える必要はありません。そうすると、2千円の関税を払う必要はないので、そのまま1万円で販売できます。A国製の1万2千円のコートと、B国製の1万円のコート、同じようなデザインで同じような素材です。どちらが売れますか。答えは明白。安いほうがいいに決まっていますね。

関税って何のためにあるの?

 そもそもなぜ、関税なんてあるのでしょう。消費者の側から見れば、外国製品が安く入ってくれば、その分助かるのでは、と思いませんか。A国のコートを、あえて国境で2千円高くする意味は何なのでしょうか。

 関税は、国内の産業を守るために存在します。海外から安い商品がたくさん入ってきた場合、商品を買う側であるわたしたちは助かるかもしれませんが、商品を売る側の人、もう少し正確に言うと国内で商品を作っている側の人は、自分の商品が売れなくなってしまって、困ってしまいます。

 人は買うものを選ぶとき、品質ももちろん気にしますが、やはり安い商品のほうが売れるのです。そうすると、高い商品は自然と売れなくなり、高い商品を作っている企業は負けてしまいます。

 つまり、海外の安い商品が大量に入ってきてしまうと、国内で作られた商品が売れなくなってしまうのです。だから、関税という方法を使って、外国から入ってきたものにある種の価格操作をして、わざと高くするのです。そうして、国内の産業を守っているのです。

世界大戦を引き起こした関税

「たかが数パーセント関税をかけるくらい、なんてことないのでは?」と思う人もいるかもしれません。でも実は、関税は戦争の原因になったことがあります。「貿易戦争」という関税の応酬だけにとどまらず、実際に武器を交えることにもつながってしまったのです。

 人類史上最大の戦争、第二次世界大戦。その原因のひとつに、ブロック経済というものがあります。  1929年の株価大暴落によって始まった世界大恐慌。これによって、世界中は、深刻な経済不況に悩まされました。そこで、各国は何をしたでしょうか。

 世界中が不況に陥っていたため、自分の国の利益は他の国に渡さずに、自分の国だけで独占しようとしました。ある意味の、自己防衛です。

 第二次世界大戦のころ、列強各国は植民地を持っていました。イギリスにはインドとかケニアなどがありましたし、フランスもアフリカ各国に植民地を持っていました。そこで、植民地を持っていた国は、自国と自国の植民地をぐるっと囲んで、一つの経済ブロックをつくりました。たとえば、イギリスの作った経済ブロックは、イギリスの通貨になぞらえて「ポンドブロック」と名付けられました。ポンドブロックの中では、関税が引き下げられ、すべてポンドで決済できるようになりました。ポンドブロックの中であれば、国境をまたいだ貿易であっても、無関税、または低関税で取引ができるようになりました。その一方で、経済ブロックの外からの製品には、高い関税をかけることにより、ブロック外から外国産の製品があまり入ってこないようにしました。これがいわゆる「保護貿易政策」というものです。

 そうなると何が起きるかというと、経済ブロックの中での取引は活発になるのですが、その外との取引は遮断されます。経済ブロックの中にいる人は、取引が盛んになり、豊かになるかもしれません。でも、経済ブロックの外の人は、高い関税の壁があってブロックの中に入れないので、事実上疎外されてしまいます。まるで仲間はずれですね。

 ここで、ブロックの外で仲間はずれにされた人はどう思うでしょう? 自分たちもブロックの中に入って貿易したいですよね。「ブロック内に入れてください!」と言ったところで、まぁまず無理です。一つ方法としては、自分が植民地になってしまうという方法もあるにはありますが……うーん、でもそれは無理ですね。さすがにプライドが許さないでしょう。

 そこでどうするかというと、「じゃあわたしも新たに経済ブロックを作ってしまおう!」となってしまったわけです。自分がリーダーになれる新しい経済ブロックを作ってしまえばいい、と思ったわけです。

 ブロック経済システムは、経済ブロックを「持つ国」と、「持たざる国」の間に、大きな経済格差をもたらしました。この状況に不公平さを感じた「持たざる国」が、他国へ軍を進めていったのです。こうして、ブロック経済というシステムと保護貿易政策は、人類の歴史の中でも未曾有の悲劇、第二次世界大戦を引き起こす一因となっていったのです。

ブロック経済への反省

 人類は、ブロック経済が世界を巻き込む戦争を引き起こしてしまったことを反省しました。そのような反省から、戦後は、ブロック経済や保護貿易をやめて、自由貿易を進めていこうという動きが盛んになりました。

 世界貿易機構(World Trade Organization)、通称「WTO」。WTOは、戦争への反省をふまえ、自由で公平な貿易をしていきましょう、ということを目標に掲げています。

 たとえば、WTOのルールの中に、「最恵国待遇」というものがあります。これは、簡単にいうと、貿易するときに、相手によって差別してはいけませんよ、というルールです。

 先ほどのコートの例に戻ってみましょう。第二次世界大戦前のブロック経済のもとでは、ブロック内の貿易には関税をかけなかったのに、ブロックの外の、いわばよそ者には高い関税をかけていました。同じ商品を輸入するのに、Aさんからは関税なしで輸入するけど、Bさんからは関税を取ります、というようなことが認められていました。簡単にいうと、貿易上の差別をしてよかったのです。

 しかし、これは、WTOのルールである、「最恵国待遇」のもとでは認められません。最恵国待遇というのは、ある良い条件をひとつの国に与えたのならば、それ以外の国にも同じ条件を与えなければいけません、特定の国だけをひいきするようなことはだめですよ、というものです。さっきの例でいうと、A国から関税なしで輸入するといういい条件を与えたのならば、A国以外にもそうしなければいけません、B国から高い関税を取るようなことはしてはいけませんよ、差別やひいきはダメです、ということです。

 WTOはこのようにして、世界の貿易が自由で公平であるように、さまざまなルールを定めています。それもすべて、二度と第二次世界大戦のような悲劇を繰り返さないぞ、という人類の決意の表れなのです。

アメリカの「鉄鋼・アルミの輸入制限措置」って何なの?

 最初にもふれましたが、最近アメリカが一部の国から入ってくる鉄鋼やアルミに対して、高い関税をかけ、日本もその対象となりました。しかし、そもそもこれはどういったことなのでしょうか。もちろんアメリカもWTOに入っています。そうだとすると、貿易をするとき、国によって差別したりしてはいけなかったのではないでしょうか。アメリカの言い分はいったいどのようなものなのでしょうか。

  アメリカは、「アメリカの安全に悪影響があるので、鉄鋼やアルミが他の国から入ってくるのを制限する」としています。「鉄鋼やアルミの輸入が、国の安全とどう関係するの?」と思う人もいるかもしれませんが、アメリカの主張はこうです。

「外国から安い鉄鋼やアルミがたくさん入ってきてしまうと、アメリカ産の鉄鋼やアルミが売れなくなってしまう、その結果、アメリカ国内の鉄鋼やアルミ産業が衰退してしまう、そうすると、アメリカの軍隊が、アメリカ産の鉄鋼とかアルミで作られた武器や装備を買えなくなってしまう、それではアメリカの軍隊は弱くなってしまう、そうなるとアメリカの安全に悪影響が及んでしまう。だから外国から入ってくる鉄鋼やアルミを制限しなければいけない。これはアメリカの国の安全を守ることだから、当然に許されることなのだ」というものです。

 これに対して、多くの国が反発しています。反対する国々は「いやいやそれは、安全を理由にしているだけで、事実上自由な貿易を妨げる違法なものだ!」と主張しています。そして一部の国は「じゃあこっちだってアメリカの製品に対して高い関税をかけてやるぞ!」として、報復に出る動きも見せています。  このように、アメリカの輸入制限措置は世界を騒がせています。

この連載について

初回を読む
高校チュータイ外交官のイチからわかる!国際情勢

島根玲子

貧困、移民、難民、食料、エネルギー、関税、自由貿易、核兵器……etc.やりすごしている重大問題丸わかり! 元コギャル外交官が明快解説する『高校チュータイ外交官のイチからわかる!国際情勢』から特別連載!

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