95年ぐらいの『ヤングサンデー』はオレが作った変な広告だらけだった
──フリーになって、晴れてデザイナーとして歩みだしたわけじゃないですか。これって小さい頃からの夢が叶ったことになりますけど、どうでした?
山口 そうなんだよな〜。35歳過ぎてようやくだよ。デザイナーになってもたいして面白くねぇ仕事やってるんだろうなって思ってたけど、実際デザイナーになるとそんなことはなかったな。まぁ、漫画のデザインっていうのは想定外だったけど、「漫画のデザインもダサくないように」っていうのは提唱できたんじゃねぇかな。
──グッチーさんの装丁って漫画の装丁っぽくないですよね。
山口 それは意識的にやってたのよ。漫画の本はとくにそうだけど、なるべく普遍性のあるデザインを考えてたんだよ。書体もオーソドックスな明朝体とかで、英文も歴史あるフォントを使ったりしてね。5年ぐらい経って古くさくなるのはイヤだったからね。まぁ、本の内容によって使い分けてさ、『ビッグコミック』とか『スペリオール』とかの青年誌は大人が買うからわりと落ち着いたデザインにして、ヤング誌とかは目に留まるような尖ったデザインにしてたな。オレ、なんにも考えてないようで考えてたんだな(笑)。
──話しながら気づいちゃってるじゃないですか。色使いも、濃いめの赤や金が多いですよね。
山口 そうそう。古びないし、本屋で並んだ時に目立つしね。あと安っぽくないでしょ。自分でもそうだけど、安っぽいデザインの本は買いたくないじゃん。熊田さんにもフリーになる前からそういう提案してたんだよ。装丁じゃないけど、漫画雑誌って最後の方に広告が入ってるじゃない。あれってなんにも面白くなくてさ。「最新刊●月発売」ってだけじゃん。そんな広告なんて意味ねぇから、熊田さんに「もうちょっと変わったことやれば目に留まるんじゃないですか?」って提案したのよ。例えば、漫画家の先生のミニインタビューみたいなことやってそれ自体を広告にするとか、そんなのを作ったんだよ。そしたら熊田さんが面白がってくれて、それからだんだん仕事をくれるようになったのよ。
──そうだったんですね! 今でこそ当たり前のようにあることですけどね。
山口 多分オレが最初なんじゃねぇかな。あとね、漫画の広告なのに写真を使った広告とかも作ってたんだよ。山本英夫先生の『のぞき屋』って漫画では、黒い紙の真ん中に穴を開けて、その奥に主人公の目玉の絵を置いて、目玉の絵のピントをぼかして写真を撮って、そのまま広告にしたり。まだMacが出る前だから、「これどうやって作ったの?」ってよく言われたよ。ほかにも、漫画のコマをくり抜いて立体的にしてから写真を撮ったものを広告にしたり、とにかく暇だったから実験的なこといっぱいやったな〜。 柏木ハルコ先生の『いぬ』って漫画の広告では、犬の安いぬいぐるみ買ってきてさ。それがゴミ捨て場に捨てられてる写真を撮って広告にしたりね。いろいろ変わったことやってたよ。でさ、その写真って熊田さんが撮ってきてくれるのよ(笑)。
──なに偉い人をコキ使ってるんですか!
山口 あの人、写真が趣味だからさ(笑)。それに編集長を辞めて暇になってたみたいだから喜んでやってくれたのよ。
──そういう変わった広告って最初に就職した、新聞広告を作ってた頃の経験が生かされたりしたんですか?
山口 そんなことはねぇな(笑)。あの頃は大した仕事やってなかったから。漫画の広告を作ってた頃は、どんなアイデア出してもすんなり通った時代っていうこともあったし、オレも常に変わったことを考えてたな。95年ぐらいの『ヤングサンデー』はオレが作った変な広告だらけだったんじゃねーかな。
宇宙から電波をキャッチ! 考えてたらデザインなんてできない
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