日本軍の隠し資産・山下財宝を発見したのはフィリピンの独裁者⁉︎

【第15回】
日本の警視庁もお手上げの連続殺人事件の捜査だが、菜月が山下財宝の行方に興味を持ったことから突破口が!? 長年、独裁者としてフィリッピンに君臨したマルコス元大統領。その死後、イメルダ夫人はマルコスが山下財宝を発見し、自らの政治資金に使っていたと告白していた。そして、記者が残した暗号との驚くべき符合が!

究極の伝奇ロマン&暗号ミステリー!

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「余り頂ける話ではありませんね」

鈴木からこれまでのいきさつを聞いた吉井警部はあからさまに言った。

鈴木も心の底では、神の染色体とかナチスの隠し財宝とかの話がオカルト的だとは思っている。捜査する立場の人間とすれば、そんな考えに振り回されてはいけないことも理解している。

それでも吉井にはっきり言われると良い気はしなかった。

「僕らもそう思っていますが、手掛かりが摑めないので」

「それは我々の責任でもある訳ですね」

ジロッと睨んだ。

「いえ、そういう意味では」

「天下のFBIと警視庁捜査一課が取り組んで、お手上げですか」

初めて、二人で笑った。

「それで、特別捜査官はどうするおつもりで?」

「報告書を書き終えたら一度パリに戻ります。そちらは?」

「捜査本部はまだしばらくそのままでしょうが、椎名学長の身辺に変化がない限り縮小するしかないかもしれませんね。我々もそれほど暇ではないので、所轄任せになるかもしれません」

語感に仕方がないというトーンが溢れている。

「私との連絡係は?」

「それは、私がしばらく担当します。そちらで進展があれば動けるようにしておきますよ」

「ありがとうございます」

鈴木は礼を言いながら、恐らく警視庁に何かを頼むことはないだろうと思っていた。

「犯人は日本人ではないと思いますので出入国の捜査は続けますが、外国人に限定しても膨大な数ですから手掛かりが摑める可能性は低いでしょうね」

「確かに。ホテルにも行ってみましたがアメリカ人と思われる人たちだけでも大勢いましたからね」

「米国系のホテルですしね」

「確かに」

また、一緒に笑った。

「ではまた何かの機会に 」

吉井はこれで最後と言わんばかりにそう言い残すと立ち上った。
鈴木は吉井を見送りながら無性に菜月に会いたくなった。

吉井の訪問のお蔭で報告書を書き上げるのが少し遅くなったが、それでも明日中には終わるだろう。 ISISへの空爆も激しさを増している現在、自分がパリにいることの方が重要に思える。

菜月と食事ができるのも今日ぐらいかもしれない。メイルを入れた。
すぐに了解との返事が来た。

今日はイタリアン!

六時にここで待ち合わせと地図が添えてあった。
銀座のすずらん通りだった。


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“Oui. Japonais célèbre.”
(ええ。有名な日本人)

“Condo à la Avenue-du-President-Kennedy”
(プレジデントケネディ通りのマンション)

“Vous parlez très bien français”
(あなたフランス語お上手ね)


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日本のイタリア料理も悪くなかった。ただ、パリも高いが東京も高い。
食事を終えてエスプレッソを飲みながら鈴木は菜月とのことを真剣に考えていた。

このまま別れるのは辛い。
だからと言って将来を有望視されている東大の小児科医に仕事を辞めてパリに来いとは言えない。
自分が東京に配属されればいい訳だがそう上手くも行くまい。

取りあえず一度パリに戻らなければならない。そうなるとしばらくは会えないことになる。
しかし、自分たちは東京とパリとの遠距離恋愛を維持できるような関係まで来ているのだろうか?

多分無理だろう。
ここで別れたらまたふりだしに戻ることになる。

となると今日が最後のデートになるのか。
困った。

鈴木は改めて菜月を見つめた。

「ねえ、さっき話していた山下財宝だけど、マルコスはどこに隠したの?」

アールグレイをストレイトで飲んでいた菜月が訊いた。どうも日本軍の残した宝に興味があるらしい。

誰でもこの手の話には魅かれるものであるが、日本が関係しているとなると尚更なのだろう。
鈴木もこの手の話は嫌いではなかった。

「Imelda(イメルダ)は自分の家の壁の中だと言っていた」

「イメルダって、あの、何千足も靴を持っていたって人でしょう」

「そう」

「独裁者って凄いわね」

「権力があることが良いことなのか悪いことなのか」

「でも靴を何千足も持っていても仕方ないじゃない」

真剣に怒っている。

「集めることに意味があったんだろう」

「病的ね」

「お医者さんの意見ですか」

鈴木に例の笑顔が浮かんだ。

「そこまで固執するのは強迫性障害でしょうね」

「obsession(オブセッション)ですか」

「そう思わない?」

「まあ」

どっちつかずの返事に菜月は不機嫌な顔をした。

「独裁者なんてみんなそんなものかも知れないよ」

慌てて取り繕った鈴木に、菜月は大きく息を吐き出した。

「どんなにお金があっても私だったらそんなことはしない」

真顔で反論している菜月の幼さが可愛かった。

「その家ってどこにあるの?」

「忘れた。調べてみようか」

鈴木は携帯を取り出しグーグル検索をかけた。

「有名な御殿はMalacanang(マラカナン)というところにあるな。近くに Marcos(マルコス)博物館があるって書いてある。マルコスの遺体が腐らないように処理されて展示されているらしい」

「遺体が展示されているの?」

「そう」

「いやね」

「Lenin(レーニン)も永久保存されて展示されているし毛沢東もそうだ。一般公開されているかどうかは知らないが北朝鮮の金日成の遺体も永久保存処理がされていると聞いた」

「趣味悪い」

「指導者を神格化したいのだろうね。エジプトのミイラみたいなものだろう」

「やっぱり異常だわ」

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神の遺伝子

中田力

“神の遺伝子”をさがす謎の中東系の男と米国人記者に始まる連続殺人事件。若き遺伝子学者・高山菜月は、FBI捜査官の日系人・鈴木とともに二つの謎を追いかけていく。Y染色体ハプロタイプ分析から導かれる人類の歩み。日本古代史の謎。そして救世主...もっと読む

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