第18回】なぜ、ブラジルのプレスは落ちなかったのか? ブラジル×スペイン

【コンフェデ編最後の臨時更新!】今回のテーマは、7/1早朝に行われたコンフェデレーションズカップ決勝です。終始ブラジルのペースとなった試合展開が印象的でした。でも、不思議だったのは前半から後半まで、ブラジルのプレスの強度が落ちなかったということ。「後半には運動量が落ちるでしょ?」誰もがそう思っていたのでは? なぜ、ブラジルのディフェンスは破綻しなかったのでしょう? 今回は、この疑問をスタートとして、ブラジルがスペインを圧倒した理由を探っていきます。

2014年ワールドカップで
ブラジル行きを考えている人へ

コンフェデレーションズカップ決勝のブラジル対スペインは、3-0で地元ブラジルが3連覇を果たした。

決勝の内容を振り返る前に、今回のブラジルの旅でわかったことを整理しておきたいと思う。今はブラジルから日本への30時間を越える移動の最中に、この原稿を書いているが、ブラジルでの滞在はいろいろ大変だった。

まず、英語がまったく通じない。ホテルのフロントでさえ通じない。みんな当たり前のように僕に対してポルトガル語でマイペースに話をするが、英語で返すと数字すらも通じない。来年のワールドカップでブラジル行きを考えている人は、ある程度のポルトガル語を覚えるか、あるいはスマートフォンの翻訳や辞書を使いこなしたほうがいいだろう。僕はその辺りの電脳テクにあまり強くないので、大変だった。

ひとつ面白いのは、ホテルのフロントでさえ英語をまったく話さないのに、コンフェデ杯のスタジアム周りに行くと、たくさんのブラジル人が英語で話しかけてくること。
貧富の差が大きいブラジルならではというべきか、コンフェデ杯のチケットが買えるような観客は、普段から高水準の教育を受けている富裕層なのだろう。このあたり、日本のような横並びの教育を受けて育つ社会とは、まったく違う構図がブラジルには存在する。

ブラジル人は基本的に仕事熱心で、真面目な人が多い。これもサンバを踊るブラジル人というステレオタイプなイメージを持って訪れると、意外に感じるかもしれない。都会のファーストフードなどではダラッとした店員も多いが、全体的に見るとブラジル人は仕事に対して生真面目だ。

むしろ問題が山積みなのは、個人よりもシステムのほう。コンフェデ杯の抽選会でブラジルを訪れたとき、ザッケローニ監督はブラジル国内を飛行機で移動した。監督が持っていたチケットの座席番号は30番代。そして機内を奥に進み、席を探していると、25,26,27,28,29……。なんとビックリ。最後部の座席が29番で終わっているのだ。

そのときは別に空席もあったので周囲が笑いに包まれたそうだが、これがワールドカップの混雑の中で起こると想像したら、ちょっと笑えない。

もう一つ厄介なシステムは、ブラジルの飛行機がダイレクトに目的地に行かず、しばしば途中降機をすることだ。たとえばリオデジャネイロからフォルタレーザに飛ぼうとするとき、飛行機がリオデジャネイロ⇒サンパウロ⇒フォルタレーザといった具合に、途中にサンパウロに一度降りて、乗客の乗り換えをしてから、再び飛び立つことがある。

まさかの各駅停車の飛行機!?

僕も20カ国以上をサッカーの取材で回ってきたが、こんなシステムは初めて見た。しかも驚いたことに、購入したリオデジャネイロ⇒フォルタレーザと書かれたチケットには、途中降機すること、さらにサンパウロの都市名が一切書かれていない。このシステムの未成熟さは……もう、何から何まで驚愕だ。

なにせ、ザッケローニ監督でさえも、スペイン対イタリアが行われるフォルタレーザに向かうとき、途中降機したテレシナという都市でフォルタレーザに着いたと勘違いして、飛行機を降りようとしたくらいなのだから。
その様子を見つけた代表スタッフがあわてて止めに行き、事なきを得たが、あやうくザッケローニ監督の視察がカラ出張になるところだった。

もし、来年ブラジルに行かれる方がいれば、こんなトラブルも含めて楽しむ気持ちを備えたほうがいいだろう。個人は仕事熱心なので、システムトラブルに対しても心の余裕を持てれば、楽しめるはず……。

なぜ、ブラジルのプレスは
落ちなかったのか?

さて。決勝のブラジル対スペインに話を移そう。
語るべき点は無数にあるが、ここではあえて一つの論点に絞って話を進めたい。それは「なぜ、ブラジルのプレスの強度が落ちなかったのか?」というテーマだ。
キックオフ直後から、ものすごいテンションでスペインに襲いかかったブラジル。ゴールを奪い取り、その後もペースが落ちない。きっとみなさん、こう思ったのではないだろうか。

「こんなプレスは試合終了までもたないだろう。
 ブラジルの動きが落ちたときが、スペインのチャンスだ」

ところが実際にはブラジルは最後までスペインを0点に抑え、ディフェンスは破綻しなかった。ここにはいくつかの理由がある。

1つは言うまでもなく、コンディションだ。イタリアとの120分の試合を終え、さらに移動を含めた中2日で試合に臨んだスペインはまともな体調ではなかった。2つ目は会場の雰囲気。すさまじい8万人の熱気によってブラジルのモチベーションは限界にまで高まり、逆にスペインはそれに押されたのか、試合開始直後は普段ではあり得ないようなイージーミスが目立った。

3つ目はブラジルが先制ゴールを奪ったこと。スペインは非常に失点が少ないチームで、南アフリカワールドカップでは大会を通して2失点、2012年欧州選手権では全部で1失点。基本的に『相手を追う展開』に慣れていない。慣れていない、という言い方は抽象的かもしれないが、要はそのための戦術、その完成度を高める機会がこれまでに少なかったということだ。

4つ目はブラジルにとって理想的な試合展開になったこと。厳密に言えば、僕はブラジルのプレスが「落ちなかった」とは思っていない。たとえば前半23分、ダニエウ・アウベスがジョルディ・アルバにファールを犯した場面、スペインの素早いリスタートに対してブラジルはあまり選手がディフェンス反応していない。このようなブラジルが崩れかける兆候は、試合中にちらほらとあった。

そして前半40分、スペインはブスケツのインターセプトからカウンター。F・トーレス、マタを経由して逆サイドのペドロが1対1を迎える。しかし、このシュートはダビド・ルイスがスライディングでゴールバーの上へかき出した。ブラジルは辛うじて崩れなかった。逆にその直後、ネイマールが追加点を挙げている。

このようなスコア展開は、すべてブラジルに味方した。試合開始直後のゴール、ダビド・ルイスのクリア、カウンターからネイマールの追加点。そしてスペインはセルヒオ・ラモスのPK失敗、ピケの退場。10人対11人になればブラジルのボールポゼッションは確実に高まり、休憩することができる。

もし、0-0のまま試合が進めば、ブラジルのプレスは確実に落ちたはずだ。しかし、そうなる前に試合を『決め切ったこと』。そして、同点ゴールのチャンスを決めさせずに『守り切ったこと』。両方のゴール前での決定力がブラジルを楽にした。ネイマールは試合後に、「正直ここまでうまくいくとは思わなかった」と述べたが、それは素直な気持ちだと思う。そういう理想的なスコア展開に運ぶことができたのが、ブラジルのプレス強度が落ちなかった理由の一つだ。

さて。

何を清水は当たり前のことをズラズラと並べてるんだ、と思った方もいるかもしれない。そう、ここまではごく当たり前の話。次に述べる5つ目の理由こそ、ブラジルとスペイン、両チームの最大の特徴を表しているのではないかと思っている。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

8mates ブラジルすばらしかったよなぁ http://t.co/BZraAl8qxg 4年以上前 replyretweetfavorite

owatta_ore http://t.co/m5M9GR45Lx #followmejp #followjp |清水英斗|居酒屋... 4年以上前 replyretweetfavorite

kw_kero ポジショニングの良さで、空振りプレスを最小限にしてるとも感じました! 4年以上前 replyretweetfavorite

takahirosso 今日も興味深い記事でした。 “@kaizokuhide: 【07/04 13:00まで無料 】” 4年以上前 replyretweetfavorite