一故人

さくらももこ、樹木希林、桂歌丸、アレサ・フランクリンetc……エンターテインメントに捧げた人生

2018年も多くの人が世を去りました。年内最後の「一故人」では、津川雅彦・朝丘雪路夫妻や菅井きん、浅利慶太、高畑勲、ベルナルド・ベルトルッチなど、広い意味でエンターテインメントの世界に生きた人々を偲びます。

2018年の物故者をエンターテインメントの世界で活躍した人々に絞って振り返ってみたい。筆者が、今年の訃報のなかでもとくに衝撃を受けたのは、マンガ家のさくらももこ(8/15・53歳。以下、カッコ内の日付は命日、年齢は享年を示す)の死去だった。さくらは、1990年に放送が始まったテレビアニメ『ちびまる子ちゃん』で原作だけでなく脚本も担当している。さらに1993年にはテレビドラマ『谷口六三商店』でも脚本を手がけた。このドラマを演出したのは、1970年代に多くのホームドラマをヒットさせた久世光彦である。さくらも子供のころ、『時間ですよ』など久世演出のドラマをよく見ていたという。

『ちびまる子ちゃん』の時代設定となる1974年は、ちょうど久世演出の『寺内貫太郎一家』が放送された年だ。このドラマには、歌手の西城秀樹(5/16・63歳)も寺内家の長男役で出演している。まる子とお姉ちゃんは熱烈なヒデキファンだっただけに、きっと家族で毎週楽しみに見ていたに違いない。

『寺内貫太郎一家』では、家長の寺内貫太郎が営む石材店の職人役で左とん平(2/24・80歳)、それから貫太郎の母役で樹木希林(当時の芸名は悠木千帆。9/15・75歳)が出演している。両者とも久世演出のホームドラマの常連であり、アドリブをふんだんに交えたコミカルな演技で人気を集めた。とくに樹木は『寺内貫太郎一家』の放送当時31歳ながら、見事に老婆に扮して強烈な印象を残す。

俳優の大杉漣(2/21・66歳)も、周防正行が小津安二郎にオマージュを捧げた初監督作品『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984年)で当時33歳にして、小津映画の笠智衆を彷彿とさせる老人になりきってみせた。このころ大杉は、劇団転形劇場に所属しながら、ピンク映画と呼ばれる成人向け映画に多数出演している。

大杉の所属した転形劇場は70年代から80年代にかけ、セリフのほとんどない沈黙劇を上演し、小劇場演劇の世界で異彩を放った。この時期には、大杉以外にも多くの若い俳優が小劇場から輩出された。角替和枝(10/27・64歳)は、つかこうへいの戯曲などを上演していた劇団暫を経て、柄本明らが旗揚げしてまもない劇団東京乾電池に移籍する。柄本とはやがて結婚し、夫婦ともども舞台だけでなくドラマや映画でも活躍した。暫時代には、のちにコントユニット・シティボーイズを結成する大竹まこと・きたろう・斉木しげるとも共演している。

シティボーイズは80年代初め、テレビのオーディション番組『お笑いスター誕生!!』でイッセー尾形などとともに注目された。イッセーは1980年より演出家の森田雄三(10/29・72歳)と組んで一人芝居を始め、90年代以降は森田と二人三脚でワークショップも盛んに行なっている。イッセーにとって森田は分身ともいうべき相棒であった。相棒といえば、水谷豊主演の『相棒』シリーズの大木刑事役で知られた志水正義(9/27・60歳)は、福岡で結成した劇団での活動を経て、上京後はしばらく水谷のマネージャーを務めていた。

『相棒』シリーズはテレビ朝日の水曜9時台に放送されているが、この枠ではかつて萩本欽一をメインとするバラエティ『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(『欽どこ』)が人気を集めた。『欽どこ』が1976年に始まったころ、同時間帯では、前出の『寺内貫太郎一家』を生んだTBSの「水曜劇場」など各局がドラマの枠を設けていた。そのため、『欽どこ』も「ドラマの要素を入れないとスポンサーがつかない」との局側の要望で、父親役の萩本、母親役の女優の真屋順子(2017年12/28・75歳)とその子供たちを中心としたホームバラエティとなる。そこで娘の一人を演じていた高部知子は、のちにスキャンダルで降板、俳優の穂積隆信(10/19・87歳)が不良化した自身の娘との葛藤をつづった手記『積木くずし』のドラマ版(1983年)に主演し、話題を呼んだ。

萩本は70年代から80年代にかけて各局で冠番組を持ち、フジテレビの『欽ドン!良い子悪い子普通の子』に「よせなべトリオ」の一員として出演した女優の生田悦子(7/15・71歳)など、俳優や歌手も交えてコントを繰り広げる。テレビ界に君臨するにいたった萩本だが、1964年に初めて出演したテレビの生番組では19回もNGを出した。このとき「自分にはテレビは向いていない」と落ち込む彼を励ましたのが、のちに芸能事務所・浅井企画を設立する浅井良二(10/9・83歳)である。浅井は、萩本が坂上二郎と組んだコント55号をはじめ、関根勤や小堺一機など多くのタレントを育てた。

『ちびまる子ちゃん』とともにフジテレビの日曜6時台に人気を二分するアニメ『サザエさん』では、磯野フネ役を声優の麻生美代子(8/25・92歳)が1969年の番組開始以来46年間務めた。ドラマや映画で味のある脇役として活躍した俳優の常田富士男(7/18・81歳)も、テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』に市原悦子とのコンビで1975年から20年の長きにわたり出演、あらゆる役をこなした。往年のテレビアニメでは、麻生や常田のように舞台出身の俳優が出演することが多かったが、そのなかにあって声優専門の事務所・青二プロダクションを設立し、新人の育成にも力を注いだのが久保進(2/6・82歳)である。

『ちびまる子ちゃん』の舞台となり、『寺内貫太郎一家』が放送された1974年、映画『砂の器』(野村芳太郎監督)が公開された。この映画で山田洋次とともに脚本を担当した橋本忍(7/19・100歳)は当初、原作となる松本清張の同名小説が長すぎて、全然やる気が起きなかったという。だが、たった1行、殺人犯となる作曲家が少年時代、父親と郷里を去ったのち、島根県までどうやってたどり着いたのかは親子二人にしかわからないとの一文を見つけると、そこからイメージをふくらませ、印象的な親子の巡礼シーンを書き上げる。橋本はこのほかにも、犯人の父親に刑事が会いに行くシーンなどを新たにつくり、原作を換骨奪胎して壮大な人間ドラマに仕立て上げた。

俳優の加藤剛(6/18・80歳)は『砂の器』で作曲家を演じ、彼の代表作の一つとなった。なお、この映画の製作者として橋本忍らとともにクレジットされる佐藤正之は、女優の菅井きん(8/10・92歳)の夫である。性格のきつい姑や老婆の役で記憶される菅井だが、『生きる』(黒澤明監督、1952年)や『八甲田山』(森谷司郎監督、1977年)など橋本の脚本による映画にもいくつか出演している。

映画『砂の器』では、物語の背景として、高度成長で失われつつあった地方のひなびた風景が描かれた。これは、国鉄(現JR)のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」などに象徴される当時の日本回帰の風潮に乗ったものともいえる。江波杏子(10/27・76歳)が主演し、津軽の荒れ果てた漁村を舞台にした『津軽じょんがら節』(斎藤耕一監督)もこのころの映画である。なお、この映画が公開された1973年には、小説家の長部日出雄(10/18・84歳)が直木賞を『津軽世去れ節』と『津軽じょんがら節』の2作で受賞しているが、くだんの映画とはまったく関係はない。

演出家の浅利慶太(7/13・85歳)は、1953年に旗揚げした劇団四季で、当初はフランス現代劇を上演し、のちには『キャッツ』などのミュージカルで多くの観客を動員するが、一方で「昭和史3部作」と呼ばれる『李香蘭』『異国の丘』『南十字星』のように日本という国や日本人を省みる作品も手がけた。

浅利は60年代、作家の石原慎太郎らとともに日生劇場の設立に尽力している。石原は、よく知られるように小説『太陽の季節』(1955年)で鮮烈に登場した。同作は古川卓己(10/4・101歳)監督により映画化(1956年)もされ、「太陽族」と呼ばれる若者たちを生み出す。俳優の津川雅彦(8/4・78歳)は、同じく石原原作で、弟の石原裕次郎が主演した太陽族映画の第2弾『狂った果実』(中平康監督、1956年)でデビューした。

太陽族が闊歩した湘南は、60年代には加山雄三という新たなスターを生んだ。加山主演の映画『若大将』シリーズでは、1961年公開の第1作以来、ヒロインの澄子を星由里子(5/16・74歳)が演じて当たり役となる。同時期のテレビでは、石原慎太郎が原作を提供し、夏木陽介(1/14・81歳)が熱血教師を演じたドラマ『青春とはなんだ』(1965年)が放送され、学園ドラマの嚆矢となった。

津川雅彦が女優の朝丘雪路(4/27・82歳)と結婚したのは1973年のこと。朝丘はこの少し前、日本テレビのナイトショー『11PM』で司会の大橋巨泉の相手役を務め、人気を博した。巨泉が番組中、朝丘の大きな胸を言い表した「ボイン」の語は流行し、1969年には落語家の月亭可朝(3/28・80歳)がその名も「嘆きのボイン」という歌をヒットさせている。

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一故人

近藤正高

ライターの近藤正高さんが、鬼籍に入られた方を取り上げ、その業績、人柄、そして知られざるエピソードなどを綴る連載です。故人の足跡を知る一助として、じっくりお読みいただければ幸いです。

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コメント

Travel_Pisce 結構頻繁に名前が出てる石原慎太郎は戦友を失い老いさらばえて行く自身とどう向かい合ってるのか気になる 11ヶ月前 replyretweetfavorite