次元が高い感情は、よりよい判断を導く

ビジネスシーンでの例題が考えさせられると好評の新刊『生き残れるビジネスマンになる21の思考実験』からの短期集中連載。感情は論理的な判断を鈍らせがちですが、「ビュリダンのロバ」のように、論理や理性だけでは判断できないケースもあります。判断の際にいかすべき「いい感情」と「悪い感情」の違いはどこにあるのでしょうか?

思考実験11 ショーユ社の選択

 ショーユ社は、密閉性の高い容器に詰めた醤油を発売しています。

 当初は、その容器の製造をA社に頼んでいましたが、売れ行きがかんばしくありませんでした。試しにと思い、容器の発注先をB社に変更したところ、その後、売り上げが伸びました。

 そんなとき、A社から容器をもう一度作らせてほしいと売り込みがありました。

 A社とB社の容器を比較しても、デザインはショーユ社が決めているのですから、たいした差は感じられず、どちらかといえば発色の具合がA社のほうがやや上質な印象さえ受けます。A社のほうが少し安い見積もりを出してくれましたので、費用は抑えられます。

 A社に変更すべきでしょうか。

感情優先の判断もありうる

 品質に変わりがなく、A社のほうが安いなら、A社のほうが会社にとってはよい取引先と言えるでしょう。そう考えると、A社に変えるほうが正しい選択と言えそうです。

 A社への変更に反対する人は、「B社に変更してから売り上げが伸びたじゃないか」と反論するかもしれません。しかし、売り上げが伸びたのは容器をB社に変更したおかげだと即断するのは、早合点ではないでしょうか。

 売り上げが伸びたのには、社内で宣伝に力を入れたり、外部のメディアで取り上げられたり、スーパーなどが販売に力を入れてくれたりといったほかの要因があったのかもしれません。容器以外の要素が売り上げアップにつながった可能性も検討すべきでしょう。

 ただし、B社に発注先を変更したタイミングで売り上げが伸びたことを縁起がよいと、ショーユ社の社員や関係者の多くが感じているのであれば、それもまた完全に無視することはできません。人は感情と切り離せない生き物ですから、B社に見えない力を感じているのであれば、それが自信や活気につながって、本当に売り上げに影響することだってありうるからです。

 また、ショーユ社としては「たいした差は感じられない」容器であっても、ちょっとした違いを消費者が感じ取っているのかもしれませんし、B社が自社のサイトやSNSなどに商品を掲載し、その時だけ売り上げが伸びた可能性もあるかもしれません。

 このように実際に何かを選ぼうとする際には、さまざまな要素が関係します。どの要素がもっとも影響しているのかを検証しようとする姿勢はもちろん大切ですが、実際のところ確実な答えが見つかることはなかなかありません。いくらデータを集めても、肝心な要素に気づいておらず、調査項目から漏れていることもあるでしょう。どんなに手を尽くしてもすべての因果関係を把握することなど、不可能なのです。

 しかし、どちらかを選ばなければ前に進めません。決め手がないのであれば、「今回はみんなの気持ちを重視しよう」と感情を優先するのも、1つの妥当な判断といえるでしょう。

思考実験12 特定保健用食品の偽装

 Aさんが勤める会社では、ある特定保健用食品の野菜バー「野菜イ!シリーズ」を販売し、好評を得ています。「野菜イ!シリーズ」はこの会社の主力商品です。

 ある日Aさんは、特定保健用食品の申請時と現在とでは、使われている製法や産地が異なり、現在の商品では特定保健用食品のマークはつけられないであろうということに気づいてしまいました。

 ただし、その製法自体に問題があるわけではなく、産地についてもとくに問題が報告されている産地ではありません。栄養価の高さを見ればどちらのほうがいいということはなく、ただ、特定保健用食品の審査基準に照らし合わせると取得できそうにないというだけのことです。

 上司に尋ねたところ、「より安く、よりよい製品をお客さまにお届けするための方法だ」と説明されました。どうやら、これはよく行なわれていることで、原価を下げ、利益を上げるためのテクニックなのだと言うのです。Aさんの立場では、製法や産地を元に戻すことはできそうにもありません。

 もしこのことを社内で騒ぎ立てたり、告発したりしたならば、会社の業績は悪化し、多くの同僚が職を失い、Aさんも退職を余儀なくされるでしょう。

 あなたがAさんならどうしますか。

感情の質が問われる

 ここで比較されるのは、自分自身や同僚、会社といった比較的近い距離にあるものに対する心配と、消費者という広い範囲に対する責任でしょう。

 正義はどちらかというなら、Aさんは行動を起こすべきなのでしょう。しかし、実際にこの立場に置かれたとしたら判断は分かれるのではないでしょうか。

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この連載について

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生き残れるビジネスマンになる21の思考実験

北村良子

変化の著しい昨今、ごく普通のビジネスマンも前例のない難しい状況での決断を迫られがちです。正解なき問題にいかに立ち向かうか。その判断力を養うのに最適なのが、あのサンデル教授の「ハーバード白熱教室」で有名な「思考実験」です。この連載では、...もっと読む

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