相手の手のうちをどう読むか
何かを選択する際、相手の出方によって結果が変わることはよくあります。しかも、選択の際、相手がこれからどう動くか、はっきりわからないことがしばしばです。
このようなとき、論理的に考えるとどのような判断が導き出されるのでしょうか?
思考実験8 囚人のジレンマ
「2人の囚人は共犯だ」
検事たちはある事件を捜査していて、すでに身柄を拘束している被疑者の囚人Aと囚人Bが共に犯罪を行なったことは決定的だろうと考えました。そこで、2人の囚人に司法取引をもちかけることにしました。
取調室に呼び出された囚人Aは、事件について聞かれますが、無関係を装っています。
「いま、囚人Bも同様に別室で取り調べを受けている。もし、お前が自白するなら、すぐにお前を釈放してやろう。そして、Bは懲役8年だ。
ただし、囚人Bも自白した場合、お前もBも懲役5年になる。
次にお前が黙っていた場合だ。もし、お前が黙っていて、囚人Bのほうが自白したらBは釈放、お前は懲役8年となる。
ただし、囚人Bも黙っていたならば、2人とも懲役2年で済むことになる。さあどうする?」
別室にいる囚人Bも同様の司法取引をもちかけられています。この2人はとても論理的に考える性分で、自分に一番得になるよう頭をひねり、答えを出します。
さて、2人はどのように考えたでしょうか。
「共に黙秘」が最適解のはず
まず、情報を整理しましょう。
●囚人Aと囚人Bが共に自白 2人とも懲役5年
●囚人Aと囚人Bが共に黙秘 2人とも懲役2年
●囚人Aのみが自白 囚人Aは司法取引により釈放され、囚人Bは懲役8年
●囚人Bのみが自白 囚人Bは司法取引により釈放され、囚人Aは懲役8年
囚人たちは、自分がもっとも軽い刑で済むように、論理的に考えます。
●釈放
●懲役2年
●懲役5年
●懲役8年
この4つの中で、囚人たちがもっとも望むのは「釈放」です。釈放されるためにはどうすればいいのでしょうか。
条件を見ると「自分が自白して、相手は黙秘する」というパターンです。つまり、囚人Aは自白すればいいのでしょうか。たしかに、うまく囚人Bが黙秘してくれれば、思惑どおり自分は釈放されます。
ただし、囚人Bも同じように論理的に考えているわけですから、そうそううまくいかないのはすぐにわかるでしょう。
次に刑が軽いのは「懲役2年」です。これは、「2人とも黙秘」の場合です。2人の刑を合計しても懲役4年ですから、2人を合わせて考えればもっとも軽い刑となります。
2人がもし、話し合って決めるのだとしたら、どう考えてもこれを選択するでしょう。つまり、これが最適解なのです。
しかし、この場では話し合うことはできません。話し合うことができない状態で、相手を信じて黙秘するのは、あまりにリスクが高いでしょう。なぜなら、囚人Aはこう考えるはずです。
「2人にとって一番いいのは2人とも黙秘だ。囚人Bもそう思っているはずだから、まずは黙秘を考えるだろう。だから、私も黙秘を選択したい。いや、待てよ。もし囚人Bが同じように考えて黙秘したとしよう。そこで自分が自白すれば、自分は釈放だ! つまり、自分は自白するべきだ!」
さて、また、「自白する」という答えが導き出されました。黙秘という選択肢はないのでしょうか。
今度は、囚人Aが黙秘することにこだわったパターンを考えてみましょう。
囚人Aはどうにか黙秘しようと考えます。しかし、どうしても、こんな思考になってしまいます。
「よし、黙秘しよう。そうすれば双方懲役2年というもっとも軽い刑になるわけだ。それが2人にとってもっともいい。
……しかし、待てよ、もし、万が一にであっても、囚人Bが自白を選んでしまった場合、どうなる? 奴は釈放だ。せいせいするだろう。なのに俺はどうだ。懲役8年というもっとも重い刑に処されるのだ!
これはどう考えても受け入れられない。絶対に、それだけは避けなければいけない。俺は懲役8年を言い渡されるようなことはしていない。つまり、絶対に黙秘するわけにはいかないのだ」
今度は「黙秘はできない」という結論が導き出されました。これはつまり「自白する」ということです。
論理的に考えても最適解にたどりつけない
結局、囚人Aはどの角度から考えても「自白する」を選択することになりました。なぜ、このような結果になったのでしょうか。ここで、もう一度、囚人Aと囚人Bの関係を示した図を見ながら考えてみたいと思います。
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