論理的に考えても、最善の選択にたどり着けない落とし穴とは?

ビジネスシーンでの例題が考えさせられると好評の新刊『生き残れるビジネスマンになる21の思考実験』からの短期集中連載。難しい判断をする場合、論理的な思考がなにより大切と考えられがちです。しかし、本当にそうなのでしょうか? じつは、どんなに論理的に考えても、自分も相手も最適な答えから遠ざかってしまう残念な場合もあるのです。

相手の手のうちをどう読むか

 何かを選択する際、相手の出方によって結果が変わることはよくあります。しかも、選択の際、相手がこれからどう動くか、はっきりわからないことがしばしばです。

 このようなとき、論理的に考えるとどのような判断が導き出されるのでしょうか?

思考実験8 囚人のジレンマ

「2人の囚人は共犯だ」

 検事たちはある事件を捜査していて、すでに身柄を拘束している被疑者の囚人Aと囚人Bが共に犯罪を行なったことは決定的だろうと考えました。そこで、2人の囚人に司法取引をもちかけることにしました。

 取調室に呼び出された囚人Aは、事件について聞かれますが、無関係を装っています。

「いま、囚人Bも同様に別室で取り調べを受けている。もし、お前が自白するなら、すぐにお前を釈放してやろう。そして、Bは懲役8年だ。

 ただし、囚人Bも自白した場合、お前もBも懲役5年になる。

 次にお前が黙っていた場合だ。もし、お前が黙っていて、囚人Bのほうが自白したらBは釈放、お前は懲役8年となる。

 ただし、囚人Bも黙っていたならば、2人とも懲役2年で済むことになる。さあどうする?」

 別室にいる囚人Bも同様の司法取引をもちかけられています。この2人はとても論理的に考える性分で、自分に一番得になるよう頭をひねり、答えを出します。

 さて、2人はどのように考えたでしょうか。

「共に黙秘」が最適解のはず

 まず、情報を整理しましょう。

●囚人Aと囚人Bが共に自白 2人とも懲役5年

●囚人Aと囚人Bが共に黙秘 2人とも懲役2年

●囚人Aのみが自白 囚人Aは司法取引により釈放され、囚人Bは懲役8年

●囚人Bのみが自白 囚人Bは司法取引により釈放され、囚人Aは懲役8年

 囚人たちは、自分がもっとも軽い刑で済むように、論理的に考えます。

●釈放

●懲役2年

●懲役5年

●懲役8年

 この4つの中で、囚人たちがもっとも望むのは「釈放」です。釈放されるためにはどうすればいいのでしょうか。

 条件を見ると「自分が自白して、相手は黙秘する」というパターンです。つまり、囚人Aは自白すればいいのでしょうか。たしかに、うまく囚人Bが黙秘してくれれば、思惑どおり自分は釈放されます。

 ただし、囚人Bも同じように論理的に考えているわけですから、そうそううまくいかないのはすぐにわかるでしょう。

 次に刑が軽いのは「懲役2年」です。これは、「2人とも黙秘」の場合です。2人の刑を合計しても懲役4年ですから、2人を合わせて考えればもっとも軽い刑となります。

 2人がもし、話し合って決めるのだとしたら、どう考えてもこれを選択するでしょう。つまり、これが最適解なのです。

 しかし、この場では話し合うことはできません。話し合うことができない状態で、相手を信じて黙秘するのは、あまりにリスクが高いでしょう。なぜなら、囚人Aはこう考えるはずです。

「2人にとって一番いいのは2人とも黙秘だ。囚人Bもそう思っているはずだから、まずは黙秘を考えるだろう。だから、私も黙秘を選択したい。いや、待てよ。もし囚人Bが同じように考えて黙秘したとしよう。そこで自分が自白すれば、自分は釈放だ! つまり、自分は自白するべきだ!」

 さて、また、「自白する」という答えが導き出されました。黙秘という選択肢はないのでしょうか。

 今度は、囚人Aが黙秘することにこだわったパターンを考えてみましょう。

 囚人Aはどうにか黙秘しようと考えます。しかし、どうしても、こんな思考になってしまいます。

「よし、黙秘しよう。そうすれば双方懲役2年というもっとも軽い刑になるわけだ。それが2人にとってもっともいい。

 ……しかし、待てよ、もし、万が一にであっても、囚人Bが自白を選んでしまった場合、どうなる? 奴は釈放だ。せいせいするだろう。なのに俺はどうだ。懲役8年というもっとも重い刑に処されるのだ!

 これはどう考えても受け入れられない。絶対に、それだけは避けなければいけない。俺は懲役8年を言い渡されるようなことはしていない。つまり、絶対に黙秘するわけにはいかないのだ」

 今度は「黙秘はできない」という結論が導き出されました。これはつまり「自白する」ということです。

論理的に考えても最適解にたどりつけない

 結局、囚人Aはどの角度から考えても「自白する」を選択することになりました。なぜ、このような結果になったのでしょうか。ここで、もう一度、囚人Aと囚人Bの関係を示した図を見ながら考えてみたいと思います。

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この連載について

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生き残れるビジネスマンになる21の思考実験

北村良子

変化の著しい昨今、ごく普通のビジネスマンも前例のない難しい状況での決断を迫られがちです。正解なき問題にいかに立ち向かうか。その判断力を養うのに最適なのが、あのサンデル教授の「ハーバード白熱教室」で有名な「思考実験」です。この連載では、...もっと読む

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