答えのない問題に答えが求められるAI時代
繰り返しになりますが、これらの思考実験(第1回・第2回・第3回)に正解はありません。
たとえば、思考実験1「暴走トロッコと5人の作業員」の多数派は「レバーを切り替える」ですが、レバーを切り替えることが正解であるというわけではありません。単にそちらが多数派であるというだけの話です。
ここまでの問題で、「トロッコ問題に対して、いろんな見方ができるし、何を重視するかで選択が分かれることもわかったものの、どうも日常に役立つとは思えない」と感じられたかもしれません。この本のタイトルには「生き残れるビジネスマンになる」とありますから、日常やビジネスでこの問題の視点を使う例を考えてみましょう。
ではもし、「正解をどちらかに決めなければならない」という場面に出会ったとしたらどうしますか。そして、ビジネスでそんな選択を迫られる日が、じつはもうすぐそこに迫っているのかもしれません。
たとえばこんな例です。
いま、自動運転の車が注目を集めています。世界ではすでに試験運転が開始された場所もあり、あと何年かすれば自動運転の車が実際に道を走っている姿を目にすることになるのかもしれません。
自動運転の車があれば運転免許のあり方も変わってくるのでしょうか。運転免許も車も持っていない著者にとってはちょっと興味のある未来です。
しかし、ここにトロッコ問題が立ちはだかります。自動運転の車とトロッコ問題は、一見まったく関係なさそうですが、実際にアメリカのマサチューセッツ工科大学では2016年、自動運転の車が直面しうるさまざまな状況での二者択一を問うオンラインアンケートを230万人を対象に実施しています。
次の思考実験はそのアンケートとはやや設定が異なりますが、検討してみると、きっと確かなつながりを感じていただけることでしょう。
思考実験4 自動運転のプログラム
あなたは自動運転の車の開発者チームに所属しています。会議でその車が故障した場合の設定について議論しています。
自動運転の車が走行中に故障したと想定します。搭乗者はそれに気がついていません。そしてついに事故を起こします。
ブレーキもきかず、速度も落とせない車は、自身を止めるために次のどちらかを選択する必要があります。ハンドルを左に切れば通行人5人が死亡し、ハンドルを右に切れば搭乗者もろともガードレールを突き破って崖の下に落下するとしましょう。
どちらを選択するよう設定しておくべきでしょうか。
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