ユリの根をはがしてゆくとやわらかな天使の鎖骨ほぐされてゆく
その町は、百パーセント風車で発電をしていた。
風車の下一面は白い百合の花。
「オランダを目指してるんですよ。あそこは古い家形の風車にチューリップですけど」
移住推進局長がわたしを案内する。
過労で体を壊したわたしは、都会からの撤退を決めた。
「来ます、ここに」
わたしは局長に告げる。
「ユリ根が特産品でね」
局長は言う。
「まあ、召し上がってください」
ホフほふとして、まず食感が懐かしい。
そして見た目で玉ねぎの味を予想していたのだが裏切られ、芋っぽい。
「夜十一時から明け方までは外に出ないでください」
局長は告げた。
移住初日。
深夜一時過ぎに外に出る。なぜ外に出てはならないのか、やはり気になる。
風と風車の音だけがする丘に上る。
海と大陸の砂の匂いがする。
見上げていると、光る鳥のようなものが次々に風車に当たり、落下する。
近づくと、鳥のような魚のような、光り物。
それらが土に染み込んでゆく。
百合の花が光を帯びる。
そうして轆(ろく)轤(ろ)の上の粘土のように、次第に形を持ち始め、立ち上がる。
新種の生物なのだろう。
眩しすぎて見ていられない。
「気付きました?」
振り返ると局長がいる。
「ユリ根は彼らの脳なんです」
白い風車が巨大な百合の花に見えてくる。
マリア像並木としての白風車回転はイエスへの子守唄
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