ナチスの金塊列車に旧日本軍の山下財宝。事件の鍵は莫大な隠し資金?

【第14回】
殺される直前にキャセイ神父が読んでいた新聞にはナチスの金塊列車の記事が載っていた。鈴木は第一の被害者・フリーマン記者の草稿にも金塊列車に関する記述があったことを思い出す。草稿には日本軍の山下財宝とともに実在する可能性が高い隠し資金であると記されていた。連続殺人事件には莫大な隠し資金が関係しているのだろうか?

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吉井警部は捜査がいっこうに進まないことに苛立ちを覚えていた。

横須賀育ちでたまたま英会話ができることからFBIとの連絡役にされてしまった。しかし自分は叩き上げの刑事である。キャリアではないが捜査一課6係の警部である。本来ならば捜査本部で指揮を取っていてもよい立場だった。

鈴木特別捜査官は若造だが特に嫌な奴でもなかった。それでもFBIなど役に立つはずがない。

だいたい何でサンフランシスコの神父がわざわざ東京まで来て殺されなければいけないのか。それも拳銃で。すべてが気に食わない。

拳銃を使ったプロがらみの仕事は四課が専門である。日本に出入りしているプロの情報はほとんど把握している。しかし今度の事件は四課にも寝耳に水であった。

椎名学長に張り付いている刑事からも役立つ情報は入って来ない。身元調査も徹底して行ったが不審な点は全くなかった。ただの学者バカとしか考えられない人物である。

(これだけ手掛かりの少ない事件もないな)

改めて考えていた。

(プロとしても一流なのかもしれない。日本人ではないな)

それが結論だった。

こうなるとFBI頼りになるのかもしれない。
ますます吉井は不機嫌になった。それでも、一度、話しておかなければならないだろう。

(しょうがない、大使館に参上するか)

吉井は重い腰を上げた。



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菜月はアメリカ外交官宿舎で目を覚ました。

アメリカ大使館は知っていたが、六本木の広大な土地にアメリカ大使館で働く人たち専用の町が作られていることは知らなかった。

昨日の夜は鈴木と一緒にアメリカ大使館に戻った。自動販売機が並んでいる簡易なカフェテリアのような場所で三時間も待たされた。

帰ると言ったのだが、どうしても部屋を用意するからと言われて半ば強引にゲストルームに泊まらされることになった。

家には病院に呼ばれたと噓をついた。
何かを期待した訳ではないのだが、なんとなくそのまま鈴木と別れて家に帰るのが嫌だったのは事実である。

菜月は普段から余り化粧をしない。研修医の時から病院に泊り込むことに慣れているので、ちょっとした緊急用お泊りセットは何時も持ち歩いている。それが役に立ってしまった。

シャワーを浴びて髪の毛を乾かし簡単な化粧をして服を着た途端、ドアーのベルが鳴った。鈴木だった。

「Chocolate Croissant and Coffee(チョコレートのクロワッサンとコーヒー)」

「ありがとう」

鈴木を迎え入れ小さなテーブルに二人で座った。
さすがにコーヒーは美味しかった。

「一つの町みたいなのね」

「そう言われればそうかな。いざとなったらここに籠もって戦う必要があるからね」

「日本と?」

「それもありうるけれど、できれば避けてほしいな。僕の両親はNew Comer(ニュー カマー・戦後の移民者)だから関係ないけれど、カリフォルニアには嫌な経験を持つ日系の家族は多いからね」

「嫌な経験って?」

「知らないの?」

「知らない」

鈴木は啞然とした。
東大に合格するような人たちでも第二次大戦で日系アメリカ人が強制収容されたことを教えられていないのだろうか。

「強制収容」

「ユダヤ人みたいな?」

「あれほどは酷くないけれど、似たような人権侵害だったことは確かでしょう。ある日突然すべての財産を、家から何から全部捨てさせられて収容所に強制収監された。アメリカに敵視された国から来た移民は苦労する」

菜月は、ふーんという顔をした。

「言われれば思い出すけど日本では余り知らされていないわね。同世代の子にはアメリカと戦争をしたことすら知らない子もいるくらいだから」

「日本人は負けた戦争のことを話したくないのかもしれない」

「そうかもね」

空気が重くなった。
菜月は気遣うように笑顔を作ると、わざと話題を変えた。

「そう言えば、昨日、ナチスの金塊列車が見つかった話をしていたわね」

「金塊列車?」

「そう、新聞に出ていたって」

「ああ、あれか。見つかった訳ではなく見つけたと言っているtreasure hunter(トレジャー ハンター)がいるという報道で、まだ決着が付いていない」

「それって本当の話なのかしら、日本でもよく同じような埋蔵金の話が出てくるけれど見つかったためしがない。詐欺みたいなものよね。FBIでも真相は判らないの?」

「Top Secret(トップ シークレット)」

鈴木はおどけて見せた。
次の瞬間、菜月の言葉が引っ掛かった。

—日本でもよく同じような埋蔵金の話が……。

(まてよ、『王と独裁者』に隠し資金の話があったな。)

突然、記者の残した原稿を思い出した。余り印象深くなかったので、すっかり忘れていた。

「ごめん、ちょっと待っててくれる」

コーヒーはそのままにして、鈴木は慌ててゲストルームを出た。

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“神の遺伝子”をさがす謎の中東系の男と米国人記者に始まる連続殺人事件。若き遺伝子学者・高山菜月は、FBI捜査官の日系人・鈴木とともに二つの謎を追いかけていく。Y染色体ハプロタイプ分析から導かれる人類の歩み。日本古代史の謎。そして救世主...もっと読む

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