第5回まで、一通り囲碁のルールをご説明しました。今回は、ちょっと違う角度から見てみたいと思います。
昔から「琴棋書画(きんきしょが)」という言葉があります。それぞれ「琴=音楽」「棋=囲碁」「書=書芸」「画=絵画」を示しています。四芸と呼ばれ、文人のたしなみとされていました。
よく見ると、音楽・書・絵画という芸術に混じって囲碁という勝負事があるのは意外かもしれません。ところが実は、囲碁にはアートな要素が多く含まれています。芸術と同じように碁盤を感覚的に捉えることができれば、早く上達することができるでしょう。名付けて、「アートな脳を刺激する革命的上達法」。
囲碁は即興演奏?
私はプロの囲碁棋士ですので、いくら囲碁が好きでも趣味というわけにはいきません。しかし、人間ですので、たまには息抜きも必要。私が普段、気分転換やリラックスするために楽しんでいることといえば、ピアノです。
囲碁もピアノも黒と白という共通点がありますね。そのご縁(碁縁?)で、世界的なジャズピアニストの山下洋輔さんと知り合う機会がありました。山下さんは、実は囲碁が大好きで、ライバルの星さんという方と、これまでに何百局も打たれています。おふたりの戦いを間近で観戦したこともありますが、いつもとても楽しそう。実は、この星さんは笛の名手で、山下さんとステージでも共演されています。
山下さんと星さんを見ていてふと、即興演奏の掛け合いと囲碁の黒白の応酬は似ている、と思ったことがあります。音楽も囲碁もセオリーがありますが、それをどうやって超えるかが勝負です。対戦相手が自分の思っていたのと違う手を打ってくるのと、即興演奏のパートナーが思わぬ音をぶつけてくるのも似ています。不意打ちの相手の技に、どうやってその場で鮮やかに切り返すか、その化学反応こそが芸術の神髄でしょうか。
ある日、山下さんと対局後の星さんがビシッと言った決めゼリフが、私には忘れられません。 「囲碁は頭を使う快楽です!」 即興演奏のように、自由な心で盤上を見つめているからこそ感じられる面白さ、といえるでしょう。
ただ、囲碁はルールを覚えてから面白さが感じられ、さらに快楽になるまで、ハードルが高いのも事実です。それはなぜか。 「どちらが優勢かをゲームの途中で判断することが難しいから」です。 つまり、ぶっちゃけて言えば、「何をやっているかわからない!」ということです。皆さんの頷く顔が見えるようですが、実は多かれ少なかれ、プロである私もこの悩みを抱えているんです。でも分からないままでは先に進めませんね。これからその解決法を伝授しましょう。
囲碁はまっさらな状態から始まるため、一見すると漠然とした無にしか感じられませんが、見方を変えれば、何でも描けるキャンバスです。無の状態を自分色に描けるようになるためのテクニックがあるのです。
実践編 ~囲碁はお絵かき!? これであなたも盤上のピカソ~
最近、囲碁棋士の木部夏生二段が『盤上キャンバス』というお絵かき講座を編み出して、これが秀逸。盤上を視覚的にわかりやすく表現しています。百聞は一見に如かず、ということで、早速やってみましょう。
これから、対局の途中の図を問題として出します。お互いの陣地になりそうな場所を黒と白とで塗り分けてください。「塗り絵なんてこどもっぽい」と侮ることなかれ。実は、囲碁の上級者は「脳内碁盤がある」と言われるように、碁盤を頭の中に思い浮かべることができ、自然と塗り分けをしているのです。
これができるようになるまで、自力だと半年以上かかるのが普通ですが、早速これを体感していただきます。これを極めれば、あなたも盤上のピカソになれるかも!? あ、塗り分けると言いましたが、紙面やアプリだけですよ。実際に碁盤に塗らないでくださいね(笑)。
<問題1> まずは9路盤の対局です。
図1
<答え>
図1-1
右上が黒、左下が白、ですね。
<問題2> 細長い形です。塗り分けなら簡単、という方は、どちらがより大きいかも考えてみましょう。
図2
<答え>
図2-1
少しだけ黒の方が大きそうですね。
<問題3> 陣地はお互いに1ヵ所とは限りません。
図3
<答え> 2ヵ所ずつに分裂することもあります。2ヵ所を合わせると黒白拮抗した大きさです。
図3-1
<問題4> 19路盤でもやってみましょう。 図4を塗り分けてみてください。
図4
<答え>
図4−1
黒は右辺から中央にかけて大きい陣地ができました。白も下辺から中央に陣地を作っています。
テレビや新聞、アプリなどで囲碁の盤面を見たら、まずこのように塗り分けてみてください。これが囲碁を楽しむ基本にして奥義です。第3回では戦略と戦術の話をしましたが、この塗り絵で現状をスピーディーに認識するのが、良い戦略を立てる第一歩です。
それでは、実戦でどのように戦略を立てているか、見てみましょう。
私の脳内で繰り広げられた戦い
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