トイアンナ×松井剛】心の奥底にある深層心理にひびかせよ

大学卒業後P&Gに入社し「ジョイ(JOY)」や「ファブリーズ」のマーケティングを、LVMHグループに転職してからはTAG Heuer(タグ・ホイヤー)とHUBLOT(ウブロ)のマーケティングを担当していたトイアンナ氏と、一橋大学教授・松井剛氏の刊行記念対談、後篇。「キャラ決めするとやるべきことが決まってくる」「どこを勝たなくていいか、決める」など現場ならではの貴重な話がたくさん出ています。


表に見せる顔ではなく、心の奥底にある深層心理にひびかせよ

松井 商品の広告というものは、「買わせよう」とするためのものと思って見てしまうけれども、それだけではなく、「その商品を買ったけれど本当によかったのかな?」と、迷う人へのメッセージであることも多いですね。これを『いまさら聞けないマーケティングの基本のはなし』では、マーケティング用語「認知的不協和の解消」として紹介しています。

トイ 「認知的不協和の解消」と同じ意味で、マーケティングの現場で使われている単語は「インサイト」です。インサイトとは、人間の深層心理のことですね。

たとえば、私の『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)は、誰に向けた本でしょうか。この本を書くとき、私は、恋愛本にする、男性向けにする、としたうえで、誰に売ろうかというマーケットリサーチをかけました。

その結果、草食系男子が7割いるということ、しかもそのほとんどが「モテたい」というフレーズを「ださい」と感じるが、モテたいと思っている、ということがわかりました。ここで認知的不協和が生じているわけです。

「モテたい」けれども「モテたいと言うことはださい」。だからタイトルを「モテたいわけではないのだが」帯コピーを、「だけどやっぱり彼女はほしい!」としたんです。そうすることで、この本を買うことで、あなたはダサい人間にはなりませんよ、むしろ正当な本を買う資格のある一途な人になりますよ、というコミュニケーションをかませたわけです。

これで認知的不協和を解消させつつ、本も買わせるしくみができた。これが、認知的不協和を解消=インサイトを刺す という行為をやっていることになります。

これは、全ての購買過程に必要です。人というのは、必ず矛盾した心理を持っているはず。社会性を持っているがゆえに、社会に出す顔と心の中の本音が違っている。また、本音というのも「考えていること」の一部に過ぎない。でもその隠された方を指されると人は「これって私のことだ」と思って買うんです。

松井 マーケターって怖いですね。(笑)

トイ 認知的不協和というのは、学生さんに対しても感じませんか? 先生のことを尊敬してはいるが、だが楽に単位は取りたい、という矛盾(笑)。

松井 そうなんですよね。私は、教育を提供する存在であるだけでなく単位を提供する存在でもあります。単位だけを欲しい人にとっては、教育の内実はどうでもいい。もちろん逆のタイプもいるでしょう。

そういういろいろなタイプのセグメントがあるので、そのどこに当てていくのかというのは、ありますね。ティーチングもマーケティングという部分もあるのかもしれないです。

トイ 比較的真面目な学生の方に寄せるのか、「楽に単位をとれる授業だよ」と見せかけておいて受講者数を増やし、人気講義であると見せかけるのか、によって、かなりパッケージが違いますよね。


キャラ決めをするとやるべきことが決まってくる

松井 自分が他人からどのように見られたいか、という印象管理(インプレッション・マネジメント)の話は本書でもしています。

トイ インプレッション・マネジメントやブランドイメージということばは、マーケティングの現場でよく使います。たとえば私、トイアンナという人物は、「ちょっと高飛車で」「めちゃくちゃ鼻につく」「外資系OL」を名乗っている女、というインプレッションを作っています。

それは作り込んでいるわけではなく、最終的にそうなってしまっただけなのですが(笑)、そういうものを作っておくと、「このキャラクタはどう動くべきか」ということがすごくわかりやすくなりますし、スキーマ(ブランド・エクイティ)を考える時に、「自分は何者で、誰からなら嫌われてもよくて、誰から熱烈に愛されたいか」という戦略を作る根幹になると思います。

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今さら聞けないマーケティングの基本の話

松井剛

何気なく使っているマーケティング用語。そのことばの裏には、あなたのビジネス、さらには世の中の見方を変える新たな視点が隠れています。一橋大学経営管理研究科・松井教授が、キーワードをゆったりと、しかし的確に解説するこの連載。他人の成功体験...もっと読む

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