僕、天使だったんです

おかげさまで、6度目のクリスマスを迎えた「ワイングラスのむこう側」。毎年、クリスマスの時期に、ちょっと不思議なできごとのお話を書かれている林伸次さん。今年のお話は、どこかで見たことのある男性がお店を訪れるところから始まります。

天使もcakes読んでるんですね

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

この年の瀬に来店した男性のお話です。白いセーターにブルージーンズで、最近注目されている若手作家に似た彼は、カウンターに座り、「グラスでシャンパーニュをください」と注文して、こんな風に話し始めました。

「フランス人が、好きな女性と食事に行って、シャンパーニュを注文しますよね。そのシャンパーニュのグラスを手に、こう言うそうなんです。『このグラスに耳を近づけてもらって良いかな。ほら、パチパチって泡がはじける音がするでしょ。このパチパチって音、天使の拍手って呼ぶそうなんだ。ほら、今、天使が僕と君の出会いを祝ってくれてるよ』。どうですか? こんな話」

「良いですね。僕はそういう話、好きですよ。この退屈でくだらない世界に『天使の拍手』という発想を入れることで、僕たちはとても素敵な世界に住んでいるような気がしますから。そういうロマンティックなの、好きです。だからバーなんてやってるのかもしれません」

「林さんは天使を信じるんですね」

「うーん、信じているかどうかは難しいですが、いてもいいですよね。幽霊や悪魔みたいには、迷惑がかからないし。あの、僕の名前、ご存じなんですね」

「はい。cakes、読んでます。毎年、クリスマスの季節になると、ちょっと不思議な話を書いてるじゃないですか。それで、僕のことを書いてほしいなと思って今日伺いました。僕、天使だったんです」

「そうなんですか。っていうか、天使もcakes読んでるんですね」

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ワイングラスのむこう側

林伸次

東京・渋谷で16年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けて...もっと読む

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コメント

kopenta カウンターの隅でこのシーンに遭遇したい… 5ヶ月前 replyretweetfavorite

hiroyuki_fujiwa 初めて、星新一さんを読んだ時のブルブルが出た。大好きだ。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

OFFRECO1 ここ最近の林さんの短編小説の中でも抜群に好きかもコレ。実在のバーに半分架空が混じるあやふや感がとても良い。。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

saki_yoshidama すごく好き。 5ヶ月前 replyretweetfavorite