【翠川初音】そして、今
その日、私の家には、幸福安心委員会のメンバーが集まっていたのです。
テーブルを囲んだ、7人の幸安委員たち。幸安メンバーといっても、みずべの公園市国から正式な徽章を授与された委員は、この部屋では、たったひとり。
私の保護者である芽衣子めいこお姉さんが、その正規委員だった。他のメンバーは皆、まだ高校生か中学生で、幸福安心委員会インターン・メンバー。通称「幸安インター」と呼ばれている、いわば見習い。
私はたぶん、早くに両親を亡くして、記憶障害も起こしていて、3年前より昔のことを覚えていない。だから市国民の幸福を守る仕事の一環として、正規幸安委員である芽衣子お姉さんが、私のことを引き取ってくれた。
芽衣子お姉さんは、家主で保護者で、私にとってお母さんみたいなものなのだけれど、まだ全然若いので、お姉さん。実際、背も高くて、すらりとして、ショートカットの似合う綺麗な人だから「お姉さん」以外の呼び方は思いつかない。
芽衣子お姉さんのことを「姉さん」と呼ぶ人は他にもいて、芽衣子お姉さんの弟、青村解あおむらかいさん。解お兄さんは、顔だちは芽衣子さんに似ているけれど、もう少しくだけた、ほがらかで人当たりのいい、悪く言うとちょっぴり不真面目な性格なんです。
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