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第6回 シンジツ・ブロードキャスティング 【緑川初音】そして、今
緑川初音の自宅には、幸福安心委員(通称:幸安委員)が集まっていた。話題は、世の中を騒がせている「デモステネス」という不幸分子・テロリストについて……。
人気ボカロ楽曲「こちら、幸福安心委員会です。」のノベライズ第2弾の発売を記念して、第1弾ノベル『こちら、幸福安心委員会です。』の一部を公開します。

【翠川初音】そして、今
その日、私の家には、幸福安心委員会のメンバーが集まっていたのです。
テーブルを囲んだ、7人の幸安委員たち。幸安メンバーといっても、みずべの公園市国から正式な徽章を授与された委員は、この部屋では、たったひとり。
私の保護者である芽衣子めいこお姉さんが、その正規委員だった。他のメンバーは皆、まだ高校生か中学生で、幸福安心委員会インターン・メンバー。通称「幸安インター」と呼ばれている、いわば見習い。
私はたぶん、早くに両親を亡くして、記憶障害も起こしていて、3年前より昔のことを覚えていない。だから市国民の幸福を守る仕事の一環として、正規幸安委員である芽衣子お姉さんが、私のことを引き取ってくれた。
芽衣子お姉さんは、家主で保護者で、私にとってお母さんみたいなものなのだけれど、まだ全然若いので、お姉さん。実際、背も高くて、すらりとして、ショートカットの似合う綺麗な人だから「お姉さん」以外の呼び方は思いつかない。
芽衣子お姉さんのことを「姉さん」と呼ぶ人は他にもいて、芽衣子お姉さんの弟、青村解あおむらかいさん。解お兄さんは、顔だちは芽衣子さんに似ているけれど、もう少しくだけた、ほがらかで人当たりのいい、悪く言うとちょっぴり不真面目な性格なんです。
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この連載について
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巨大ウォーターフロントにある「みずべの公園市国」。そこは完全で完璧な女王サイレンと呼ばれるAI(人工知能)が統べる国家だ。サイレンは自らの分身である“オンディーヌ”と、市国民のなかから選ばれたエリート集団“幸福安心委員会”を使って市国...もっと読む
著者プロフィール
ライトノベル作家。2006年『SAS スペシャル・アナスタシア・サービス』で第1回ノベルジャパン大賞優秀賞受賞、同書でデビュー。2012年にはボカロPである、うたたP氏と楽曲制作をコラボ。作詞を手掛けた『こちら、幸福安心委員会です。』が、投稿からわずか1ヵ月半で100万再生を突破するなど爆発的なヒットとなる。
うたたP氏が手掛けるVOCALOID-PVの動画イラストを担当。かわいさと狂気を含んだ二面性を持つ魅力的なイラストが話題を呼んだ。また、昨今は雑誌、ノベルのイラスト提供等、活躍の場を広げている。