一緒に飛行機のチケットを探してるとき、アキがふいにユウカの足首を触った。
「あら、ユウカ、足首細いのね」
くすぐったさを覚えつつ、ユウカは自慢げに答えた。
「そうなんですよ、アキさん。私、足首だけは綺麗だって褒められるんですよね」
「そう、足首だけ? 変わった趣味の男になら受けるかもね」
なんだか褒められてるのか、けなされてるのか、わからないアキの言葉にユウカはそっと一言返した。
「世の中広いんですから、いますよ。そういう人も」
すると、アキはユウカのちっぽけな反抗心など見透かしたように言った。
「そう? 豊胸手術も受ければいいのに」
「え!? 豊胸ですか?」
「そうよ。胸がでかいと男の人の見る目が変わるわよ。道を歩いてたって、男の視線を感じるし。お店だって、顔がイマイチでも胸が大きいと採用したりするからね」
お店とは以前アキが経営していた夜のお店のことを言ってるんだろう。そういうお店では胸がぱっくり開いたような服を着るし、顔よりも胸ばかり見ているお客さんも多い。
「えー。そりゃアキさんみたいに胸が大きいと男の人から人気でしょうけど、小さくてもいいっていう人がいるはずですよ」
「あなたの考え方はいつもそうね。ニッチな方へニッチな方へと頭がいっちゃうのね。前に話さなかったかしら? 入り口は広い方がいいに決まってるじゃない」
「そんな入り口を広くして、誰でも彼でも入ってきたら、大変じゃないですか」
「胸が小さいほうがよくて、足首が綺麗な女が好きなんて、それ変態じゃない? あなたの家の門は変態しか通れないわ」
「なんでそうなるんですか!笑 アキさんこそ、自分が理解できない魅力は全部変態の好物にするのはやめてください」
あまりにアキの傍若無人な論法がおかしくて、ユウカは半笑いになって答えた。
「私はね、一般常識の話をしてるのよ。私ほど常識的な人間はいないんだから」
アキも負けじと言い張る。ユウカも今回のアキの思い付きの行動をなじる。
「アキさんほど非常識な人間を私は見たことありませんよ。こうして、氏素性もわからない私のような人間を家に招き入れて、一緒に沖縄に行こうとしてる」
「あら、私は結婚相手もそれで選んだわよ。氏素性なんて、そうそうわかるもんじゃないし」
「だからアキさんは非常識なんですよ」
「あら、あなたから見たら非常識かもしれないけど、私の人生にあこがれるでしょう?」
ユウカは答えに詰まった。嘘でも否定はできない。
「……はい」
「なら、あなたも非常識になればいいんじゃない?」
ここまで言われて、ユウカは今度は本当に何も言い返せなくなってしまった。
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