先のことを考えると不安だけど、今を笑って生きたい

昨年までの10年間、山小屋で働いていた小屋ガールの吉玉サキさん。山小屋スタッフの人間模様や悩み、恋などを綴ります。山小屋の仕事は季節労働。自由や楽しさはあるけど、将来の不安もある。でも山小屋スタッフの中には、そういった不安がまったくない人も。いったいこの不安とどう付き合ったらよいのでしょうか。

突然だけど、この記事が公開される日、私は35歳になる。

この歳になってもまだ、「これから生きていけるのかな」と不安に思う。主に、将来の経済的な不安だ。

思えば、山小屋スタッフのときからずっと、不安を抱えていた。

山小屋は季節労働だから経済的に安定しているとは言えない。だけど、私のように不安を抱える人間もいれば、まったく不安がない人もいる。

立場は同じなのに、感じ方はそれぞれなのだ。

きっと、下界で正社員をしていても不安な人はたくさんいる。

そんな人に向けて、不安との付き合い方について書こうと思う。


山小屋の仕事は不安定?

山小屋は春~秋の季節労働なので、毎年、契約期間が終了すると無職になる。

じゃあ仕事がない間はどうしているのかというと、人それぞれだ。

いっさい働かずに貯金で生活する人もいれば、毎年同じところで働く人、毎年あちこち職場を変える人も。ちなみに私は、コールセンターやデータ入力の短期バイトをすることが多かった。

よく、「山にいるとお金使う機会がないから、お金貯まるでしょ?」と言われる。

たしかに、ずっと山の上にいるので、現金を使う機会は休暇のときくらい。食費は給与から天引きされるものの少額で、「こんなに美味しいご飯が毎日食べられてこの金額なの!?」といった感じ。住む場所は山小屋の従業員部屋なのだけど、寮費のようなものも取られない。

だから、実家暮らしのフリーター基準で考えると、わりと貯まるほうだと思う。

だけど、はっきり言って、経済的に安定しているとは言い難い。

私たち夫婦はアパートを借りているので、山小屋にいる間は空家賃(からやちん)を払っていたし、そもそも給与の高い仕事ではない。収入は都内で正社員をしている人には遠く及ばないし、毎年、冬の仕事を探さなければいけない面倒もある。

慎ましい暮らしならできるけど、私は常に将来の不安を抱えていた。

「そんなに不安なら、山小屋をやめて就職すればいいじゃん」と思われるだろう。

私もそう思う。実際、安定を求めて28歳のときに就職を試みた。

けれど、お恥ずかしいことに、すぐ挫折してしまった。

「お金&安定」と「自由&楽しさ」を天秤にかけたとき、どうしても「自由&楽しさ」が勝ってしまうのだ。

不安だ不安だと言いながら、また山小屋に戻ってしまった。


「なんとかなるさ」でまったく不安のないスタッフ

山小屋スタッフの中には、私と同じようにお金の不安を感じている人もいれば、まったく不安がない人もいる。

昨年、スタッフのカンジ(仮名)と休暇がかぶり、麓まで車に乗せてもらったときのこと。

私が「将来のこと考えると、ウワーって叫びそうにならない?」と聞いたら、あっさり「ならへん」と言われた。

「カンジはメンタル強くていいなぁ」

「あ、でも、宇宙の果てがどうなってるのかとか、時間っていつ始まったんだろうとか考えるとウワーってなるで」

「そ、そっか……」

カンジはいつも不安がなさそうだ。私の口癖が「これから生きていけるのかな」であるのに対し、彼の口癖は「なんとかなるやろ」。

同じ職業で、年収も年齢も同じくらい(余談だけど血液型と星座も同じ)なのに、この違い。それなら、不安になるぶん私のほうが損している気がする。

思うに、お金の不安があるかどうかは、収入や貯蓄額よりも、その人の性格や考え方に左右されるのだろう。

カンジのようにお金の不安がないスタッフには、このような性質がある。

①「なんとかなる」という楽観思考
②「なんとでもできる」という自信
③「今までだってなんとかしてきた」という自負

どれも、私にはないものだ。

①と②はもともとの性格が関係するとしても、今までなんとかしてきたのに、なぜ③が芽生えないのか?

自分でも不思議に思う。


不安ガールと覚悟ガール

私と夫は、結婚した年にアパートを引き払って長旅に出た。

夫婦そろって住所不定無職。住民票は夫の実家に置き、家財道具は知人が所有する倉庫に置かせてもらっていた。

帰国後、住所不定のまますぐに山小屋に行ったのだけど、このときが不安のピークだった。

なんせ、下山したらまず部屋を借りなければいけないし、仕事も探さなければいけない。不安で不安で、下山したくなかった。

そんなある日、系列の山小屋のスタッフが遊びに来た。久美子ちゃんとリサちゃん(どちらも仮名)だ。

みんなで夕食を食べていると、その日が初対面だった久美子ちゃんに

「夫婦で山小屋なんて、将来が不安じゃないんですか?」

と言われた。

その瞬間は、ディスられたと思ってカチンときた。「悪かったな、夫婦そろってフリーターで」と思った。

しかし、よくよく話を聞くと、久美子ちゃんには私をディスる意図はないらしい。

それどころか、私のことを「羨ましい」と言うのだ。

彼女は私より2つ年下で、天然っぽい雰囲気の子。つい最近まで新卒で入社した会社に勤めていたけど、どうしても辛くて会社を辞めたという。就職活動までのつなぎとしてとりあえず山小屋に来たものの、不安でたまらないそうだ。

「サキさんはポジティブでいいなぁ。私も、お金の不安なく笑って生きられる人になりたい」

……わかる!

私も、ずっとそう思っていた。

お金がたくさんあったら、もちろん嬉しい。だけど、私や久美子ちゃんのような心配性の人間は、きっといくらお金があっても不安になる。

だから、お金も欲しいけど、それ以上に「不安にならないメンタリティ」が欲しいのだ。

私たちが不安トークで盛り上がっていると、久美子ちゃんと一緒に遊びに来たリサちゃんが

「何がそんなに不安なの?」

と不思議そうに言った。

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saki_yoshidama 「小屋ガール通信」書籍化記念として、cakesで過去記事を無料公開しています。これはお金の不安の話。 #山小屋ガール本 https://t.co/QS9YlU9QjP 4ヶ月前 replyretweetfavorite

etozudeyoshida 📷 https://t.co/MiXab6S3yd https://t.co/NHPFtH1zx8 8ヶ月前 replyretweetfavorite

SetunaHearts #スマートニュース 10ヶ月前 replyretweetfavorite

ue_san00 僕は不安メーンです。 今を笑っていきたい。いい言葉ですね 😆😆 https://t.co/xTuc3RGR6Z 10ヶ月前 replyretweetfavorite