【オンディーヌ〈No.01_39〉】3年前
私の名前は、翠川初音みどりかわはつね。といっても、それは表向き。
本当には、オンディーヌ〈01_39〉という監視体の名前がある。水辺の女王サイレンの目と耳になって、市国民の幸福と安心を監視するのが任務なんです。
私は、今日は特別な任務を受けている。救いようのない、とても悪い不幸分子を処分する、大切なお仕事を義務づけられた。
そういう大事な仕事の途中だというのに、私は、他のことが気になって仕方がない。
今は市バスに乗って、いつも通っている小学校へ向かっている。同乗している無数の乗客とは違って、隣に座っている男の子は、私にとって特別な存在だ。黄波漣。冷たい感じのする男の子なんだけれども、本当は違う、と私は知っている。
ほぼ満員の市バスの中で、搭乗口近くのポールに押しつけられそうになっている私の横に、漣くんは立っている。市バスが揺れると、乗客も揺れる。どっと私のほうに倒れかかってくる乗客もいる。
すると漣くんは、その間に体を挟む。両腕を壁に突っ張って耐える。
「すごく邪魔。おじさん、大人なんだから、しっかり両手でつり革に掴まりなよ」
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