【サイレン〈No.01〉】7年前
私は、みずべの女王サイレン。
幸せな市国民たちが、幸せな毎日を送るのを見守る。
蒼く透き通ったこの瞳は、市国民が完全に幸福かどうか、見守るために。
ツインテールに結っている長く伸ばした髪は、あらゆる電波・音波を聞き逃さないアンテナ。紫紺と黒の髪飾りで増幅アンプさせ、市国民たちの声を聞くために。
私の存在すべては、市国民のためにあるんです。幸福で安心な人々のためにある。だからこの私、女王サイレンこそが、「義務」そのものだ、とも言えるんです。
私は幸せな市国民たちを見守り、幸福な歌を詠う。
完璧で完全な、絶対幸福女王。義務は国中に伝播する。そうあるべきだと、私は真実、よく理解している。今はもう忘れてしまったのだけれど(多分、そんなに大切な情報じゃなかったから)私を生み出したNEGIが、私に義務を教えてくれた。
〈幸福なのは義務なんです♪ 幸福なのは義務なんです♪ 幸福なのは義務なんです♪〉
全国に中継される幸福の歌は、街頭の有線放送で流れる。
ファストフードの店内で流れる。
アウトレットショップで、ハンガーに吊された衣類の合間を流れる。
ビルの壁面、巨大な液晶モニタ広告では、私の分身、水妖姫オンディーヌたちが、軽やかにダンスを踊る。オンディーヌという名前は、古い伝承から取ったらしい。水の妖精だ。別の呼び名もあるという話だけれど、私は、そこに興味はない。
きっと水辺の女王である私の分身として、ふさわしい名付け方をされている。