編集者Kは「二葉タクシー」で素敵な出会いの夢を見る

差別化しにくい業界の会社でも、何かの付加価値をつけ「感情を揺さぶる売り方」をすることで、ファンを生み出すことは可能だ。ここでは差別化が難しいタクシー業界で、10年以上前から、ちょっとしたアイデアによって同じタクシーを「レアカード化」している京都のタクシー会社の事例を紹介する。

差別化が難しいタクシー業界でどうする?

 タクシーという業種は、一般的にはなかなか差別化しにくい業態だ。基本は移動の手段であり、クルマも似たような車種が多いので乗り心地もほとんど変わらない(最近、東京都内ではワゴン型のタクシーが増えてきて、これは非常に乗りやすいが)。決められた地域でしか営業できないし、運賃も同じと決められているケースがほとんどだ。そうなると、乗務員の接客くらいしか差別化のポイントは見つからないと思われがちだ。

 そんな中、サービスで差別化を図る会社も多い。いま全国的な広がりを見せているのが「子育てタクシー」だ。妊婦の陣痛時のスムーズな送迎から始まり、保護者に代わって子供を保育園や塾などに送迎するというサービスで、研修を受けた乗務員が担当する。全国の提携会社については、こちらから検索できる(https://kosodate-taxi.com/member/)。

 三和交通グループ(本社横浜市)は、ゆっくり走ることをウリにした「タートルタクシー」というサービスを実施している。一般的にタクシーは急いでいる時に乗ると思われがちだが、実は「今は急いでないからぬっくり走ってほしい」という要望が意外にも多かったことから始まったサービスだ。車内にある「ゆっくりボタン」を押すと、いつも以上に急発進や急加速などをせずに走ってくれる。高齢者や女性に特に好評だという。

見かけただけで幸運が舞い込むタクシー

 京都に行くと、「溜色(ためいろ)とクリームのツートンカラーのタクシー」(※溜色=濃いあずぎ色)をよく見かける。それがヤサカタクシー(彌榮自動車、本社京都市)だ。三つ葉のクローバーをシンボルマークにしており、「三つ葉タクシー」の愛称で呼ばれていて、京都では知らない人がいないくらい有名だ。その理由は「四つ葉タクシー」の存在が大きい。

 営業車約1400台の内、たった4台だけ、シンボルマークのクローバーが四つ葉になっているタクシーが存在し、幸運のタクシーとして、乗るのはもとより見かけるだけでもご利益があるという噂が広まっているのだ。

 「四つ葉タクシー」を走らせることになったのは、乗客からの手紙がきっかけだったという。「三つ葉のマークに落ち葉がくっついて、まるで四つ葉のクローバーのように見えたタクシーに乗ったら、幸運な出来事が続いた。ぜひ四つ葉のタクシーを走らせてほしい」というものだった。

 この投書をきっかけに、2004年、ヤサカタクシーは4台のタクシーの表示マークを「四つ葉のクローバー」に変えてみた。このちょっとした遊び心が、ヤサカタクシーに大きな幸運をもたらす。走り始めて2カ月後、たまたま乗り合わせた新聞記者が紙面で紹介したのだ。これにより「見かけると(乗るとさらに)幸せが訪れる」という口コミが京都中に広まっていく。乗車すると「記念乗車証」がもらえるので、乗ったことをブログの記事にする人も多かった。当時、ヤサカタクシーの全車両は1200台だったので、確率は300分の1。1400台に増えた現在も、四つ葉の4台は変えていないので確率は350分の1。このレアな確率が、より口コミを広げたに違いない。流し専門で予約を受け付けていなかったこともレア度を維持することに貢献した。

 ヤサカタクシーには、今でも「四つ葉タクシーに乗車したことに対する喜びの手紙」が数多く届く。乗務員はお客さんから一緒に記念撮影を求められたり、通りがかりの人から写真を撮られたり手をふられたりするので、ちょっとしたスター気分が味わえるという。中には、乗車した瞬間、「このまま宝くじ売り場に行ってくれ」などと言われることもあるらしい。

 理性的に考えれば同じタクシーだが、「出会う(乗る)と幸せが訪れる」という付加価値をつけたことで、見かけると感情が揺さぶられるのだ。その結果、写真を撮ってSNSなどにあげたくなる。さらに口コミが広がっていく。たった4台の四つ葉タクシーの存在が、ヤサカタクシー全体のバリューが高めているのだ。


歌舞伎役者の市川蔦之助さんも最近四葉タクシーに当たったという。

四つ葉よりさらにレア度が高い「二葉タクシー」

 私自身も京都出張の時、何度かヤサカタクシーに乗ったことがあるが、いまだに四つ葉タクシーに乗ったことも見たこともない。数カ月前にも、たまたま三つ葉タクシーに乗ったので、運転手さんに「四つ葉タクシー」のことを聞いてみた。営業所が違うので運転手さん自身も「四つ葉」と遭遇することは滅多にないそうだ。京都の中心部を走ると多くのヤサカタクシーとすれ違ったが、すべて三つ葉だった。

 その運転手さんからは「二葉タクシー」の存在を教えてもらった。世界遺産「上賀茂神社(賀茂別雷神社)」の第42回式年遷宮を記念して、その神紋である「二葉葵」をイメージして創られたもの。たった2台しか走ってないそう。確率700分の1!「四つ葉タクシー」よりもレアなのだ。「四つ葉タクシー」の話題は『物を売るバカ2』(角川新書)に触れていたのだが、既に脱稿したあとだったので、「二葉タクシー」のことは本の中に書きそびれてしまった。

 先月、『物を売るバカ2』担当編集者であるKADOKAWAのK氏と本の打ち上げをしていた時に、たまたまその話になった。するとそれから数週間後、K氏からメールが届いた。なんと「京都で二葉タクシーに乗車しました!」というもの。そして送られてきた写真が以下のものだ。

 写真には以下のように書かれている。
<上賀茂神社の神紋・二葉葵の葵(あおい)は、平安時代には「あふひ(逢う日)と表記し「良き出会い」を意味しています。「二葉のクローバー」も「素敵な出会い」を花言葉にしています。上賀茂神社とヤサカタクシーは「上賀茂神社式年遷宮(~平成31年3月)をきっかけに京都を舞台とした「悠久の歴史との出会い」と「幸せ出会い」をコンセプトに「特殊仕様車・あふひの二葉タクシー」を運行しています。>

 これはすごい。京都に住んでいたら別だろうが、たまに行く出張でこのレアカードを引き当てるのは! ふだんは爪を隠しすぎているくらい隠している気もするが、やはり「能ある鷹」は違う!


ご利益か、K氏は担当したcis著『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』
編集者として初めてAmazon総合1位がとれたという。
あやかってみてもいいかもしれない。

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川上徹也

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コメント

kawatetu 京都なタクシー会社とカドカワの 7ヶ月前 replyretweetfavorite

feilong “23681” https://t.co/ot3heKlge6 7ヶ月前 replyretweetfavorite