一見すると普通の白身魚のようだけど……
もうすぐクリスマスですね!
ということで、ちょっと早いですが今回はクリスマスらしいネタを取り上げたいと思います。なお、今ぼくは極寒の海辺で魚がかかるのを待ちながらこの記事を執筆しています。神様、もし願いが叶うならいますぐ暖炉が欲しい。
暖炉といえば!
北欧の国ノルウェーには、かつて燃え盛る暖炉の様子を8時間に渡り生中継した番組があったそうです。視聴率もめっちゃ良かったらしい。
そんな一風変わった国ノルウェーには、これまた一風変わったクリスマスメニューが存在します。それが今回のテーマ「ルーテフィスク」です。
ルーテフィスクの材料になるのは干したタラ。
作り方は大変シンプルで、まず干しダラを水酸化ナトリウム水溶液で戻し、それをオーブンで焼いてソースを掛け、添え物をしたら完成です!
かつては「クリスマスには欠かせない!」とされ、各家庭で食べられていたそうです。
……ここまでで違和感をおぼえた方、大丈夫、ぼくもです。
水酸化ナトリウム水溶液……ってあれでしょ? 間違って手にかかったら指紋がなくなるやつ(元文系大学生の知識の限界)
強いアルカリ性で、皮膚につくとあっという間に侵蝕し、すげーやべー事になるというあれ。
水酸化ナトリウム水溶液漬けのタラって、そんなもん、食べたら胃酸と反応して胃の中で食塩できちゃうんじゃないの!?(国文学士の発想の限界)
まあ無知のたわごとはおいておいて、このルーテフィスクの透明感、これはアルカリ性の液体中に置かれることで魚の身が変質し、ゼリー状になったという料理なのです。
なんだそれ……なんでわざわざそんなことするんだ……
しかもさらに調べてみると、ルーテフィスク、現在ではノルウェー本国でも食べる人は減ってきているそうです。
その異様な見た目に加え、強烈な匂いがあり、そもそも食べる人を選ぶ食材であることを考えれば、この飽食の時代、利用されなくなっていくのはやむを得ないことといえるかもしれません。
近年では一周まわってネタ的な愛され方をする食品になってきているようで、普段「うちのパティはビーフ100%!!」をウリにしているハンバーガーショップが、クリスマスになると「うちのパティはルーテフィスク0%!!」というセルフパロディ広告を作ったこともあるそう。
一方、ノルウェーからの移民が多いアメリカの一部の州では現在でも、クリスマスシーズンになるとルーテフィスクを食べる催しが開催されたり、教会にてふるまわれたりするそうです。
「ノルウェーからの移民の半分はルーテフィスクから逃げようとした者で、もう半分はルーテフィスクを広めようとした者だ」なんていうジョークもあったり……。
知れば知るほど分からなくなる謎の料理、ルーテフィスク。
あまりに気になったので、自作してみることにしました。
ルーテフィスク作りは科学実験
まずは材料を準備します。
用いるのはどこのスーパーにも売られている干しダラ……なのですが、買ってくるのはちょっとつまらないので
こう見えてタラの仲間
前回の記事でも紹介した「深海釣り」の外道として有名な深海ダラのひとつ、トウジンを使ってみることにしました。
深海ダラは本家のタラと比べるとやや水っぽいことが多いのですが、干して水分を抜けば味はかなり近くなります。
ひと瓶使い切ることはできるのか……
それから、今回の調理に欠かせない調味料(?)苛性ソーダこと水酸化ナトリウムを、薬局で購入します。
水酸化ナトリウムは指定劇物なので購入にあたり身分証と購入理由が必要になります。ふつうは「石鹸を作りたくて……」みたいな理由で購入されることが多いと思いますが……
「すみません、タラの水酸化ナトリウム漬けみたいなノルウェー料理があって、それを作ろうと思って……」
「は、はあ……(困惑した顔)」
そりゃ困りますよね……すまん、薬局のオバちゃん。
怪しいことには使わないのでどうぞ売ってください。
指定の用紙に名前を書いてハンコをつき、無事手に入れることができました。購入時の手間こそありますが、値段はそこまで高くなく、入手は容易です。
ただ、ちょっとでも肌に触れると非常に危険なことになるのは間違い無いので、浸蝕されないプラスチック製の容器と、ゴム手袋もバッチリ準備しておきましょう。
ガラスは浸蝕されてしまうので使用禁止
なんだこれは、本当に調理の装備なのか……マッドサイエンティストが変な錬金術にトライするときのような気持になります。
ちなみにノルウェーでは水酸化ナトリウムはここまで扱いが厳重でなく、誰でも簡単に買うことができるとのこと。もちろんルーテフィスクを気軽に作れるようにするため……なのかな?
材料が揃ったので早速やっていきましょう。
本家タラと比べるとやや身は薄いが、肉質はそっくり
まず、カチカチに干し上げた深海ダラを取り出し、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬します。
……濃度、どれくらい!?
色々調べてみましたが、日本語はおろか英語のレシピすらヒットしません。(後になって知人が見つけてくれましたが)
どうしよう……うーん……
えーい、濃けりゃいいだろ濃けりゃ!
漬けたところの色がすぐに変わる
ということでとりあえず10%の水溶液を製造し、そこにドボンと浸漬しました。
期間はどれくらい漬ければいいのかな…とりあえず3日くらいやってみようか……。
……翌日。
!?
でろんでろんやんけwwww
……うーん、これはやりすぎた。明らかに水酸化ナトリウム濃度が高過ぎましたね。
そもそも水酸化ナトリウム水溶液は、5%以上の濃度では廃棄できないほど浸蝕力の高い液体。10%の液体に漬ければ、筋肉は「ゼリー状になる」レベルでは済まないほどに侵されてしまうでしょう。
それでも、半分くらいになってしまった身を拾い集めて観察すると
プルプルだ
ゼリー状になっているとは言えそう。
匂いは……結構キツイですね。灰汁抜きしてないコンニャクに似たような香りです。あれもアルカリ性だからなぁ……
気を取り直して次の作業に。
水にさらして水酸化ナトリウムを抜いていきます。
ちょっとでも残っていると食べた時に大変なことになるので、念を入れて3日さらしてみました。
干し魚だったといわれてもにわかには信じがたい
色素が完全に抜けて半透明になりました。匂いもかなり穏やかになり、普通のコンニャクと同程度にはなりました。
これでとりあえず、ルーテフィスクという食材は完成です。
これを調理していきましょう。
ルーテフィスク、結構イケるかも……!
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