人はトクすることしか聞いてくれない。

広告を見た人が、それを買うかどうかの判断は、「トクするかどうか」だけである。「トク」とは広告で「ベネフィット」と呼ばれるもののこと。受け手にとっての「いいこと」が認識できなければ、その広告は秒殺されるだけの運命だ。日常会話でもそれは同じなのだ! 話題の新刊『伝わるしくみ』から特別連載。

広告が教えてくれたこと

「受け手がすべてを決める」「受け手の言って欲しいことを言ってあげる」は、広告を題材とするのがわかりやすい。
よく言われる話だが、芸や技は「厳しいお客様」に育てられるものだ。 ぼくも生活者・消費者という厳しいお客様を相手にする広告という仕事を通して、 多くのことを学んだのだと思う。

  広告においては大半の場合、受け手は積極的な興味など持ってくれないし、それゆえ積極的に見ても聴いても読んでもくれない。 受け手は広告が自分に送られて来るや否や瞬時に、無表情に、冷淡に、「自分に関係ある/ない」を判断している。
 仮に「自分に関係ある」として、続けて判断するものは「自分にトクがある/ない」である。その結果で、送られてきた広告の処理(受け入れるか/否か)を決めている。
その場合、広告がしばしば「関係ない」となるのはどうしようもない。その広告を見た人が、必ずしもターゲットとなるお客様ではないのだ。(20歳の学生には、生命保険やコンドロイチンは「関係ない」)

 つまり、買うかどうかの判断は「トクするかどうか」
「トク」とは広告で「ベネフィット」と呼ばれるものである。 端的に言うと、広告とはターゲットという受け手に「ベネフィット」を伝えることである。

「このシャンプーを使えば、あなたの髪のダメージを修復するといういいことがある」
「このクレジットカードを持てば、あなたの人生を豊かにすることができるといういいことがある」 「このサプリを摂れば、あなたの辛い痛みが軽減されるといういいことがある」

どんな広告でもそんなふうに「ベネフィット」を伝えている。「この商品やサービスを手に入れるとこんないいことがある」ということだ。受け手にとっての「いいこと」が認識できなければ、その広告は秒殺されるだけだ。

 それは広告だけの厳しいルールなのかというと、残念ながらそうではない。
 広告には、特殊な人が、特殊なミッションのために、特殊なメディアを用いて伝えようとする、特殊なコミュニケーションであるという認識があると思う。 確かに、メッセージを伝えるために何億何十億を費やそうとするコミュニケーションは、ぼくらの日常生活にはない。テレビや新聞を通して誰かに何かを伝えようとすることもない。

 しかし、「次の連休は海外に行きたい(だから同意して欲しい)」や「キミが好きだ (だから付き合って欲しい)と、「このシャンプーを買って欲しい」はお金のやり取りがあるかないかだけで、送り手が自分の望む方向へ受け手を動かそうとする様子はどう見ても同じだ。それを受諾するか、拒絶するか、無視するかのすべては受け手に委ねられているということも同じだ。

また受け手からしてみても、ある人が広告に関してのみ例外的に、強欲に「ベネフィット」を求めていると考えることには無理がある。「受け手がすべてを決める」のだ。あらゆるコミュニケーションにおいて、受け手はなんらかの「ベネフィット」を 要求していると考えるほうが自然だ。 受け手は日常会話でも、ベネフィットを求めている。

トクすることしか聞いてくれない

 先に例としてあげたモチーフを「自分に関係ある/ない」「トクをする/そうでもない」から考えてみる。

送り手「このキャンペーンが最善と考えます(という主張に同意して欲しい)」
受け手「最善とは言えないんじゃないかな」
  送り手の言葉は「自分に関係ある」が、内容に不満で「トクするとは思えない」ので受け入れない。

送り手「そんな効率の悪いやり方には反対だよ(という意見に同意して欲しい)」
受け手「あのね、今回のテーマは効率ではないのだよ」
送り手の言葉は「自分に関係ある」が、論点に齟齬があり「トクをするかといえばそうではない」ので受け入れない。

送り手「今度の連休は海外に行こうよ(国内ではなく海外に行きたいんだ)」
受け手「絶対京都じゃなきゃイヤだ」
 送り手の言葉は確かに「自分に関係ある」が、自分の考えとは大きな隔たりがあるので「到底トクするとは思えず」ゴネる。

送り手「チャーシューメン麺固めで(そのように食べたいのでそのようにつくって欲しい)」
受け手「ウチそういうのやってないんで」
  送り手の言葉は「自分に関係ある」が、手間もかかり「少なくともトクをするよう なことではない」ので断る。

送り手「ぼくはキミが好きだ(お願いだから付き合って欲しい)」
「ゴメン、そういう気ないし」
  送り手の言葉はもちろん「自分に関係ある」が、その男と付き合っても「トクすることなどひとつもなく」門前払い。

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