夏生まれの娘が生後4か月になり、やっと首がすわった頃。
街はすっかりイルミネーションモードになって、サンタは実在しないと知っているはずの大人たちも、特別な一日を待ち焦がれていた。
そんな12月上旬。
実家に遊びにいき、祖母とその友人と一緒にお茶を飲んでいた時、テレビでおもちゃメーカーのクリスマス商戦CMが流れた。
私はなんの気なしに、「この子には何を買おうかなぁ~」と抱っこした娘に微笑みながら呟いたのだが、「え! こんな赤ちゃんにクリスマスプレゼント? それはおかしいわよ!」と祖母たちに笑われてしまった。
赤ちゃんはクリスマスの意味も知らないし、何か買ってもらったところで、まだロクに遊べない。しかも本人が何か欲しがるわけでもないのに、親が勝手に選んで買うなんて、ヘンテコだ、と祖母たちは主張した。
祖母たちの意見は、きちんと事実にそっていたし、矛盾もなかった。
それでも私は、モヤッとした。
そうだけど…そうなんだけど~!と言い返したいような、モゾモゾした気持ち。
あの時、そのまま飲み込んだアレコレを、この季節に整理したい。
赤ちゃんへの出費は、最低限にとどめるべき?
まだ意思決定のできない乳児に対して、オモチャや洋服を多く買い与えることは、「無駄遣い」であって、あまり褒められた行為ではない、という意見には育児をしていると結構な頻度で出くわす。
発言者の意図はわかる。
子供は成長するとお金がかかるものだ。
それに3歳にもなれば、あれを買ってこれを買ってと、際限なく要求してくるのだから、何もいまから張り切らなくても…という、金銭的な心配は理解できる。
もしくは、本人が喜びもしないのに、着せ替え人形のように考えて洋服選びを楽しむのはよくない、という苦言であったりする。
この時よく言われるフレーズは「そんなのは、必要最低限でいいのよ。」である。
確かに、赤ちゃん用品を買いすぎて、家計が火の車になってはいけない。
これを言ってくるのはだいたい育児の先輩世代なので、経験則でもあるのだろう。
しかし、私は思う。
「必要最低限」の定義を、当事者ではなく、第三者が決めてしまうのは、ちょっとおかしいのではないのかな、と。
そして、「そんなの」と表現される、「赤ちゃん用品の選択」が、各家庭の中で、どの程度の重要度、意味合いを持つのかも、それぞれちがうのではないのだろうか、と。
「正しい消費」はどこにある?
人は生きていくために消費をする。
衣食住の整備や交通費は「必要経費」と呼ばれ、生命を維持するために不可欠な出費だと考えられている。
これに対して、美容や趣味、交際に関わるお金は、どこまでが最低限でどこからが浪費なのか、という明確な線引きがない。なぜなら、個々の価値観で決まるものだからだ。
もちろん、収入が多い方は、全体的な消費も多くなるものだが、同一年収であっても、1000円カットに年6回いくだけの美容費の方もいれば、毎月2万円の美容室とエステと脱毛とメイク講座で、年40万円近く使います、という方もいる。
この2人を比較するとき、美容費6000円の方は、たしかに「必要最低限の」ミニマム消費であるかもしれないが、では40万円の方が、必ずしも浪費家なのか、というと、そんなことはないと思う。
「美容」にお金を使うことは、この方にとって数少ない娯楽で、これがあるから仕事を頑張れる、強力な幸福を感じる行為であるかもしれないし、6000円の方だって、美容にかける費用が少ないだけで、その他の出費はわからない。
つまり「消費」とは、同じ内容でも個人に与える精神的な影響がまったく異なり、一部分だけをみて、それは浪費、それは倹約、と定義することはできないのだ。
そんなの当たり前じゃん?と思うかもしれない。
しかしながら、「赤ちゃんにお金をかける」という消費活動は、無条件に「よくない消費で、浪費」と判断されることが多い。
これはおそらく、昔からある「良妻賢母」のイメージが原因だ。
女性は結婚したら、つつましく夫をたて、賢く家計をやりくりし、子を育てるもの。
そこまで古の考えを持っている人は少数でも、どこかで「赤ちゃんの服など着られればなんでもいいし、おもちゃもわざわざ買わなくていいでしょ」という認識をもつ人は少なくない。
「エステや脱毛に数十万なんて無駄」という考えと同じように。
赤ちゃんに対して、生命維持以上の出費をすることは、ぜいたくで、浮ついていて、意味がない。
「その人にとって、その消費がどんな意味を持つのか」を配慮せずに突き付けられるこの価値観に、あの日の私は、モヤモヤを募らせたのだ。
赤ちゃんとすごす「はじめの1年」
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