「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」
「たしかにおっしゃるとおりかもしれません」と私は言いました。「申し訳ございません。醜態をさらしてしまいました。疲れすぎているのでございましょう。このところ、ずっと旅をつづけていたものでございますから」(『日の名残り』より引用)
もう12月でそろそろ年末がぼんやり見える季節になってきた。
わたしは年末のことがすごく好きだけど、苦手だ。
今年が終わるのはなんだか嬉しい。一区切りつくことはいつだって楽しいし。年が変わったって何が変わるわけでもないことは知っているけれど、それでも何かが変わってくれるのではないか、という淡い期待。断捨離した後の気分と少し似たような感じだ。
だけど一方で年末になると、頭を抱えたくなる。一年を振り返るとロクな記憶がない。「お前は、この一年、本当に、ちゃんと、きちんとすべて過ごせたのか!?」と見たこともない神様に問い詰められている気分。
ああ一年、サボりまくった日々の思い出しか残ってないぜ! なぜわたしはあそこで突然『きみはペット(全14巻)』を一日で一気に読み返したいとか思ったのか。なぜわたしは夏休みをほぼ昼夜逆転気味に過ごしてしまったのか。はっ、来年の目標を立てようとしても去年とまったく同じ(※「肩こりがマシになるようどうにかする」)のものを挙げているのか!?
年末って、自分の成績表を自分自身に突きつけられている気がする。やばい。反省点しかない。
そんな思い起こせば反省ばかりの日々である人……はわたしだけかもしれないけれど、でも、年末になると「あ~しかし何もできてないまま一年が終わってしまう~」と感じてしまう人はわたし以外にもいる。かもしれない。そんなあなたに! ぜひおすすめしたい小説が!! ある!!
ってなんだかテレビショッピングみたいな流れだけど、『日の名残り』。昨年ノーベル文学賞をとったカズオ・イシグロの描く「年末」にぴったりの物語なのだ。
『日の名残り』カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳(早川書房)
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。